「コンパクトシティ」は、海外で1970年代から提唱されてきた街のあり方の1つです。「住まい」と「生活機能」が近接し、商業・交通などのインフラがコンパクトにまとまった都市と定義される傾向にあります。
人口減少社会と言われる日本では、コンパクトシティのメリットが認められ、2014年に改正都市再生特別措置法が成立。各自治体がコンパクトシティ化に舵を切りました。その一方で、これまで都市を拡大することで街や企業が成長してきたことから、そのデメリットも露見しています。
ここからは、国内の成功事例・失敗事例を交え、コンパクトシティとは?という疑問にお答えをしていきます。
目次
コンパクトシティとは?

コンパクトシティとは、その名の通り小さくまとまった都市のことを指します。
コンパクトシティの歴史において起点といわれるのが、1972年に示された「成長の限界」という研究です。この発表が世界的に注目され、都市にも持続可能性が求められました。これはこのまま人口が増加することで、2072年までに地球は維持できない状態となってしまうというマサチューセッツ大学の研究に基づく論文です。
これをもとに、環境負荷の低減を目指したまちづくりとしてヨーロッパではコンパクトシティの考えが広がっていくこととなります。
コンパクトシティに人口や規模などに明確な条件はありません。基本としては、
・自家用車なしでも生活できる公共交通を軸とした利便性の高い街
・インフラや行政コストを抑えて運営できる省エネな街
・環境や社会的弱者への配慮がなされた包容力のある街
こうした都市を「コンパクトシティ」と定義する動きがあります。またアメリカでは1973年に物理学者のジョージ・バーナード・ダンツィーグが提唱した「ニューアーバニズム」という言葉を用いることもあります。またイギリスでは「アーバンビレッジ」という呼び方もあるようです。
一方でコンパクトシティの逆を表す言葉に「スプロール化」という言葉があります。鉄道網が貧弱で車なしで生活できない街、まばらに開発され野放図に広がった街などが該当し、未来の少子高齢化社会に対応できない街です。
なぜコンパクトシティなのか?

高度経済成長期の人口増加を受けて、日本の都市圏では急速に住宅が拡がりました。これによりインスタント料理のような街、インスタント料理のような家ばかりになり、今後少子化が進むことで交通インフラや教育に支障をきたすようになるでしょう。
そんな日本も、人口減少と高齢化が進み、空き家が増え、まもなく住宅のうち、30%が空き家になろうとしています。こうした歯抜け状の街に、最盛期と同じ規模のインフラを維持することは、無駄な行政コストの発生に繋がります。当然、税金の上昇や景気の悪化という形で私達の生活をさらに苦しめる要因になります。
そこで重要性を増してくるのが、コンパクトシティの形成です。地方に分散した街を、改めて各地の拠点をベースとしたコンパクトシティに再開発することで、本格的な生産年齢人口の減少に備えるための取り組みです。
【メリット】コンパクトシティが日本で注目される理由

先述の通り、日本では改正都市再生特別措置法が2014年に成立し、コンパクトシティへの動きが強まっています。この章では同法をもとに、コンパクトシティが注目を集める理由を解説します。
少子高齢化が進んでいるため

大前提として日本は人口が減っています。これまで100軒の家が必要だった街は80軒で済むようになります。さらに人口流入の続くエリアは大規模な集合住宅が建っており、人気を集めています。
こうしたことから、日本においてはかつてほど広い街が要らなくなりました。少なくとも令和時代において、都市を拡大する意味は全くありません。
そこへ、高齢社会がやってきました。これまで以上にバリアフリーをすすめ、介護・医療のインフラを集中させる必要が出ています。もしかすると徘徊・認知症などの対策、孤独死対策、葬儀インフラもさらに充実させる必要があるかもしれません。
こうした場合、生活が徒歩で完結し、すぐ病院にたどり着けて、隣近所との交流が便利なコンパクトシティの意義が高まります。
災害に対応するまちづくりが期待できるため
改正都市再生特別措置法では。災害リスクの高い災害ハザードエリア「レッドゾーン」への開発を禁止し、災害リスクのやや高い「イエローゾーン」では住宅等の開発許可を「厳格化」しています。
一方でこうして住民を比較的安全な立地に誘導し、地震や水害などの災害リスクから住民を守るためにコンパクトシティが推進されています。
さらに、都市が小さくなることで、救助や避難、助け合いなどの取り組みやすさが高まります。
増税に歯止めがかかるため
コンパクトシティが進めば、公共事業関係費が抑えられます。富山市が2004年にはじき出した試算では、人口密度が半分になると、住民1人あたりの道路・下水道等のインフラ維持費用は2倍になるとされています。
例えば公共事業関係費のうち、道路の新設・修繕にかかる事業費は1.67兆円。コンパクトシティが進まないまま人口ばかり減っていくと、この事業費が変わらない、あるいは増える一方で、税金を支払う人数は減っていきます。これを割り勘すると、増税につながるという理論は、普段から高い税金を支払っている人であれば直感できると思います。
さらに高齢社会において、介護・医療の集約が進めば、社会保障関係費も削減あるいは現状維持が出来る可能性もあります。
また地方自治体をコンパクトシティにすることは、だぶついた公共施設の統廃合につながります。さらに街の中心部に商業需要を集めることで地元にお金が落ち、地域にお金が回るようになります。結果的にコンパクトシティを推進することが、増税の阻止につながります。
中の人はほぼ確信しているんですが、裏付けのデータが全くないという日本社会の闇に直面しています。
節約につながるため
生活コストも落とせます。
まず自動車の維持が必須でなくなること。購入費用に加え、年間10万円程度の税金・保険、同じくらいのガソリン代、さらに駐車場代を考えると、給料の1~2ヶ月分を自動車関連で持っていかれるという世帯は少なくありません。これが要らなくなるのは家計にとって大きなプラスです。
また、買い物や通勤にかかる時間が短くなることは、時間コストの節約に繋がります。例えばお弁当を作ってから出かける、1時間ゆっくり余分に寝るなどの暮らしができるのはコンパクトシティの特権です。
税金を抑え、出費を減らし、有意義な時間を増やす。コンパクトシティにはそういったメリットがあります。
【デメリット】コンパクトシティの推進が遅れている理由とは

一方、コンパクトシティは万能薬ではありません。デメリットとして、下記のようなことが考えられます。
人口が密集し住環境が悪化する
持ち家住宅の延べ床面積を都道府県別に比較した際、最も狭いのが東京、ついで神奈川、大阪、沖縄と続きます。一方で家の広い県は富山、福井、山形となります。
都市化が進んだ地域や土地の狭い地域ほど家が狭くなる傾向にあることから、各地に小さい都市を作ることが目標となる「コンパクトシティ」において、居住面積は狭くなる傾向にあるでしょう。
また、並行して、家賃の上昇やご近所トラブルなども増加しそうです。
大規模な災害時における物資不足
コンパクトシティの取り組みは、基本的に災害対策につながります。ただし、都市に暮らすということは、食料の一切を物流に頼る必要があるということでもあります。
都市部に住んでいる方なら、台風直撃の前夜などでスーパーやコンビニからパンやラーメンがごっそり売り切れている光景を見たことがあるのではないでしょうか。
災害の一時被害に強くなるコンパクトシティですが、二次被害を防ぐためには、都市計画の時点でどれほど備蓄をし、どう食料や水、電気を補給するかといったインフラを考える必要があります。
コンパクトシティ形成のための初期費用
本気でコンパクトシティを推進する場合、少なくとも公共交通は今よりも費用を投下する必要があります。また自動車通勤からのシフト、空き店舗の活用、引っ越し補助など、様々なサポートを官民で実施する必要があり、経費もかかります。
さらに、人口を中心地に集める場合、高い地価・物価のエリアに、収入の少ない世帯が流入することが考えられます。いくつかの街は富裕層を集めることでブランド化している事例があり、無計画なコンパクトシティ化はブランドの毀損という意味でコストが発生します。
付け加えて言えば、こうしたコンパクトシティ化への投資に対し、どれほどのリターンがあるか議論される事例は多くありません。むしろコンパクトシティ外の人らによる、機会損失を憂う声が圧倒的なことも、コンパクトシティ推進を遅らせている要因です。
都市開発の妨げに
たとえば、日本では1990年代から、大規模小売店舗が建設可能となり、現代の「イオン」や「ららぽーと」につながっています。コンパクトシティを推進する場合、こうしたお店のありかたを再考する必要があります。
つまり、日本がこの30年ほどの間で進めてきた都市開発の考えを否定するものになります。
国交省は自治体のコンパクトシティを推進したい、経産省は地方を開拓して大規模モールを作って欲しい。高齢者のうち移動が困難な人は歩ける街を望み、若者はイオンに繰り出す。商店街など中心部の経営者はコンパクトシティを望み、郊外の地主はコンパクトシティに反対する。
こうしたチグハグが、コンパクトシティ推進の大きな足かせになっています。
コンパクトシティ事例

この章ではコンパクトシティの事例をいくつか取り上げます。コンパクトシティを上手く推進できている街のほか、失敗事例もいくつか紹介します。
富山県富山市

富山市は全国のなかでも最もコンパクトシティづくりに成功している自治体と言えます。富山市は県庁所在地という性格から交通網が集まるターミナルになっており、中心市街地の回遊性はもともと高くなっていました。
一方で列車本数は多くなく、車社会が続いていました。
この状況を改善すべく、市はJR西日本が廃線予定だった富山港線を引き継ぎ、路面電車「富山ライトレール」(現在は富山地方鉄道に移管)として利便性を高めました。このあたりは本一冊かけるほど情報があるのですが、詳しい話はまたの機会にでも…
とにかくLRTを整備し、駅の数を増やし、本数も4倍に増やしました。また市の施策として、高齢者などを対象に運賃を大幅値下げ。数々の施策が結実し。JR時代に平日約2000人・休日約1000人だった利用客は、富山ライトレール転換後、一日平均4000人を超えました。
その他の地域でも、公共交通の周辺に徒歩圏の小さな拠点を複数作り、公共交通でお団子状に貫くことで利便性の高いまちづくりを進めました。
この取り組みによって、町中心部、あるいは公共交通の周辺への人口流入が増えたとされています。また路面電車の整備によって高齢女性の外出が増加したデータもあります。コンパクトシティのモデルケースである同市は、地方創生のモデルにもなったといえます。
参考文献:http://www.city.toyama.toyama.jp/
福岡県福岡市

福岡市は全国的に定評のあるコンパクトシティの一つです。大都会でありながら街をコンパクトにまとめており、その高い効率性や居住性を評価する声が多数上がっています。
戦時中から戦後にかけ、半ば無理やり空港を作った経緯があることから、街と空港が非常に近いのが特徴で、地下鉄の開通した現在、街にとって大きな強みとなっています。博多駅まで5分、中心街の天神まで10分でつきます。
飛行機以外の交通網も発達しており、新幹線が東と南へ、また在来線は山口方面、大分方面、佐賀方面への幹線と、地下鉄・西鉄が放射状に広がっています。中心の博多・天神エリアは徒歩移動も可能なほか、シェアサイクルのサービスを活発に利用する傾向にあります。
また北は博多湾に面し、韓国行きの船もあります。福岡は新幹線や港湾、空港がすべて半径2.5km圏内にあり、通勤をはじめとする移動がかなりしやすい町であると言えます。
こうした背景により、国内屈指の大都市ながら主要都市部がコンパクトにまとまり、ストレスの少ない生活が可能。転勤族から「東京に帰りたくない」という声も出るとか、出ないとか…。
参考文献:https://compact-city.com/paris-fukuoka/
埼玉県蕨市

埼玉県蕨市は、日本一小さな市(駅から街全体までだいたい歩ける!)であることを強みとして、街づくりの軸にコンパクトシティを据えています。
特色は低コストでのコンパクトシティ達成を目指していることです。ソフトの面からさまざまな対策をすることで、大掛かりな投資なしで一定量の地域おこしができる事例としてもっと注目されるべき自治体の取り組みと言えます。
まず市内唯一の駅である京浜東北線の蕨駅を拠点とし、駅周辺における商店街の空き物件を埋める施策を複数打ち出しました。
例えば商店街の持ち回りで休日にイベントを実施したり、空き物件を有効活用するためのワークショップや起業塾、街の回遊性を高めるための博物館におけるイベントなど、人の手をかけた取り組みを多数実施しています。
また、同市では5年の取り組みを「蕨市中心市街地活性化基本計画の最終フォローアップに関する報告」としてまとめており、コンパクトにシティの活性化に取り組んだ企業の実態がわかりやすい資料の一つになっています。
関連記事はこちら:
https://compact-city.com/warabi1/
愛媛県松山市

松山市は県庁や市役所などの公共、銀天街・百貨店などの商業、温泉やお城などの観光、さらに住宅が城を中心に集中し、そこを路面電車が高頻度に走り移動を担うという、コンパクトシティの手本のようなまちづくりが既に出来ています。
現在はそうした松山市内の道路をより歩行者に寄り添ったものへの再整備、鉄道駅の高架化、バスターミナルの整備、松山市駅前の再開発など、様々なアップデートが走っています。
これにより、クルマも路面電車も歩行者もさらに移動がしやすい街となり、住むにも訪れるにも便利な街へと発展していくことでしょう。
コンパクトシティの失敗事例
コンパクトシティは成功事例だけではありません。
青森県青森市
青森市は1999年から全国に先駆けてコンパクトシティ化を推進してきました。その象徴として街の肝いりで建設されたのが、中心地に建つ「アウガ」という複合施設です。
森の課題は除雪です。街が広くなれば除雪費用がかさみ、人口密度が減っても街のサイズが変わらなければ除雪の費用は減らせません。そこで、市内を都市・居住・農林の3つの役割に分けて、徐々に集住を促していくという壮大な計画を打ち立てました。
しかし、結果として「アウガ」が建った以外に明確な効果はなく、コンパクトシティを推進していた元市長の佐々木誠造氏が引退したことで、コンパクトシティ推進は完全に停止。結果として、利便性もさほど高くないのに土地だけ高い中心地が残り、郊外から人は戻らない、なんとも中途半端な結果となりました。
また肝心の「アウガ」も2016年に経営破綻状態となってしまい、現在ではコンパクトシティの失敗事例として広く知られています。
秋田県秋田市
秋田市は2001年からコンパクトシティの推進に乗り出し、近年になって駅周辺が賑わいを見せてきました。
そんな秋田市が打ち出すのは「多核集約型コンパクトシティ」。その肝として、中心地から5kmほど離れた「外旭川地区」において、イオンと連携し1000億円規模の開発に乗り出すと発表。商業施設やスタジアムを誘致するという内容に、これまで同地域での開発はありえないと聞かされていた市民らに戸惑いが広がりました。
2022年末には、寄せられた市民の声に対し秋田市が返答するPDFが公開されましたが、なんとも壊れたスピーカーのような答申であり、当事者がどこまで内容を理解しているのかも不透明です。
はたしてコンパクトシティを作りたいのか、新都心を作りたいのか。コンパクトシティを作りたいなら新しい土地開発をすること自体矛盾しており、新都心ならなぜ人口減少と高齢化が進む中でプロジェクトが持ち上がったのか、理解が難しい部分になっています。
まとめ

コンパクトシティの難しさは、人・モノ・金・土地という大きな資本を多少なりとも動かす必要があることです。
たとえば住宅街がドーナツ化、あるいはスプロール化してしまった街をコンパクトシティに変えていくには、新たな公共交通の整備や、既存の住民への引っ越し、行政サービスの縮小などが必要となる場合が数多くあります。
またコンパクトシティとして開発する都市の範囲をどこまで広げるかによって、出費、住民の負担、そして受けられるサービスの範囲がガラリと変わります。このあたりの調整の難しさもコンパクトシティ特有のものでしょう。
さらに、空き家の撤去や集合住宅の解体など、多くの同意を集める必要がある再開発や、地域再生の妨げとなる法律の存在など、腰を据えて取り組んでも効果が出るかわからないような不確定要素は数多くあります。
そのため、まずは小さいことから実施できるアクションをとる動きも全国に出ています。福井市の電車通勤推進に向けた取り組みなどがこれに該当します。
当メディアは、これからコンパクトシティ実現を目指す日本全国の行政から個人にまで、まちづくりのレファレンス・メディアになるものと信じています。住みやすいコンパクトシティへの引っ越しを検討中の方から、企業や役所での方針としてコンパクトシティ形成を目指していく皆様まで、各地のコンパクトシティの概要や、メリット・デメリットをつかめる、わかりやすいサイトを目指します。
参考
https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXMZO3109860029052018000000
https://www.mlit.go.jp/common/001295508.pdf
https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2008/
https://todo-ran.com/t/kiji/11967
https://www.nta.go.jp/taxes/kids/hatten/page17.htm
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE248CG0U2A121C2000000/
https://www.city.akita.lg.jp/shisei/iken/1003667/1020432/1036480/1036492.html
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