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日本の「コンパクトシティ」事例集。富山だけじゃない、まちづくりの成功モデルとは

この章ではコンパクトシティの事例をいくつか取り上げます。コンパクトシティを上手く推進できている街のほか、失敗事例もいくつか紹介します。

日本のコンパクトシティ事例は?

富山県富山市

富山市は全国のなかでも最もコンパクトシティづくりに成功している自治体と言えます。富山市は県庁所在地という性格から交通網が集まるターミナルになっており、中心市街地の回遊性はもともと高くなっていました。

一方で列車本数は多くなく、車社会が続いていました。

この状況を改善すべく、市はJR西日本が廃線予定だった富山港線を引き継ぎ、路面電車「富山ライトレール」(現在は富山地方鉄道に移管)として利便性を高めました。このあたりは本一冊かけるほど情報があるのですが、詳しい話はまたの機会にでも…

とにかくLRTを整備し、駅の数を増やし、本数も4倍に増やしました。また市の施策として、高齢者などを対象に運賃を大幅値下げ。数々の施策が結実し。JR時代に平日約2000人・休日約1000人だった利用客は、富山ライトレール転換後、一日平均4000人を超えました。

その他の地域でも、公共交通の周辺に徒歩圏の小さな拠点を複数作り、公共交通でお団子状に貫くことで利便性の高いまちづくりを進めました。

この取り組みによって、町中心部、あるいは公共交通の周辺への人口流入が増えたとされています。また路面電車の整備によって高齢女性の外出が増加したデータもあります。コンパクトシティのモデルケースである同市は、地方創生のモデルにもなったといえます。

参考文献:http://www.city.toyama.toyama.jp/

福岡県福岡市

福岡市は全国的に定評のあるコンパクトシティの一つです。大都会でありながら街をコンパクトにまとめており、その高い効率性や居住性を評価する声が多数上がっています。

戦時中から戦後にかけ、半ば無理やり空港を作った経緯があることから、街と空港が非常に近いのが特徴で、地下鉄の開通した現在、街にとって大きな強みとなっています。博多駅まで5分、中心街の天神まで10分でつきます。

飛行機以外の交通網も発達しており、新幹線が東と南へ、また在来線は山口方面、大分方面、佐賀方面への幹線と、地下鉄・西鉄が放射状に広がっています。中心の博多・天神エリアは徒歩移動も可能なほか、シェアサイクルのサービスを活発に利用する傾向にあります。

また北は博多湾に面し、韓国行きの船もあります。福岡は新幹線や港湾、空港がすべて半径2.5km圏内にあり、通勤をはじめとする移動がかなりしやすい町であると言えます。

こうした背景により、国内屈指の大都市ながら主要都市部がコンパクトにまとまり、ストレスの少ない生活が可能。転勤族から「東京に帰りたくない」という声も出るとか、出ないとか…。

参考文献:https://compact-city.com/paris-fukuoka/

埼玉県蕨市

埼玉県蕨市は、日本一小さな市(駅から街全体までだいたい歩ける!)であることを強みとして、街づくりの軸にコンパクトシティを据えています。

特色は低コストでのコンパクトシティ達成を目指していることです。ソフトの面からさまざまな対策をすることで、大掛かりな投資なしで一定量の地域おこしができる事例としてもっと注目されるべき自治体の取り組みと言えます。

まず市内唯一の駅である京浜東北線の蕨駅を拠点とし、駅周辺における商店街の空き物件を埋める施策を複数打ち出しました。

例えば商店街の持ち回りで休日にイベントを実施したり、空き物件を有効活用するためのワークショップや起業塾、街の回遊性を高めるための博物館におけるイベントなど、人の手をかけた取り組みを多数実施しています。

また、同市では5年の取り組みを「蕨市中心市街地活性化基本計画の最終フォローアップに関する報告」としてまとめており、コンパクトにシティの活性化に取り組んだ企業の実態がわかりやすい資料の一つになっています。

関連記事はこちら:
https://compact-city.com/warabi1/

愛媛県松山市

松山市は県庁や市役所などの公共、銀天街・百貨店などの商業、温泉やお城などの観光、さらに住宅が城を中心に集中し、そこを路面電車が高頻度に走り移動を担うという、コンパクトシティの手本のようなまちづくりが既に出来ています。

現在はそうした松山市内の道路をより歩行者に寄り添ったものへの再整備、鉄道駅の高架化、バスターミナルの整備、松山市駅前の再開発など、様々なアップデートが走っています。

これにより、クルマも路面電車も歩行者もさらに移動がしやすい街となり、住むにも訪れるにも便利な街へと発展していくことでしょう。

コンパクトシティの失敗事例

コンパクトシティは成功事例だけではありません。

青森県青森市

青森市は1999年から全国に先駆けてコンパクトシティ化を推進してきました。その象徴として街の肝いりで建設されたのが、中心地に建つ「アウガ」という複合施設です。

森の課題は除雪です。街が広くなれば除雪費用がかさみ、人口密度が減っても街のサイズが変わらなければ除雪の費用は減らせません。そこで、市内を都市・居住・農林の3つの役割に分けて、徐々に集住を促していくという壮大な計画を打ち立てました。

しかし、結果として「アウガ」が建った以外に明確な効果はなく、コンパクトシティを推進していた元市長の佐々木誠造氏が引退したことで、コンパクトシティ推進は完全に停止。結果として、利便性もさほど高くないのに土地だけ高い中心地が残り、郊外から人は戻らない、なんとも中途半端な結果となりました。

また肝心の「アウガ」も2016年に経営破綻状態となってしまい、現在ではコンパクトシティの失敗事例として広く知られています。

秋田県秋田市

秋田市は2001年からコンパクトシティの推進に乗り出し、近年になって駅周辺が賑わいを見せてきました。

そんな秋田市が打ち出すのは「多核集約型コンパクトシティ」。その肝として、中心地から5kmほど離れた「外旭川地区」において、イオンと連携し1000億円規模の開発に乗り出すと発表。商業施設やスタジアムを誘致するという内容に、これまで同地域での開発はありえないと聞かされていた市民らに戸惑いが広がりました。

2022年末には、寄せられた市民の声に対し秋田市が返答するPDFが公開されましたが、なんとも壊れたスピーカーのような答申であり、当事者がどこまで内容を理解しているのかも不透明です。

はたしてコンパクトシティを作りたいのか、新都心を作りたいのか。コンパクトシティを作りたいなら新しい土地開発をすること自体矛盾しており、新都心ならなぜ人口減少と高齢化が進む中でプロジェクトが持ち上がったのか、理解が難しい部分になっています。

まとめ

コンパクトシティとは?総括まとめ

コンパクトシティの難しさは、人・モノ・金・土地という大きな資本を多少なりとも動かす必要があることです。

たとえば住宅街がドーナツ化、あるいはスプロール化してしまった街をコンパクトシティに変えていくには、新たな公共交通の整備や、既存の住民への引っ越し、行政サービスの縮小などが必要となる場合が数多くあります。

またコンパクトシティとして開発する都市の範囲をどこまで広げるかによって、出費、住民の負担、そして受けられるサービスの範囲がガラリと変わります。このあたりの調整の難しさもコンパクトシティ特有のものでしょう。

さらに、空き家の撤去や集合住宅の解体など、多くの同意を集める必要がある再開発や、地域再生の妨げとなる法律の存在など、腰を据えて取り組んでも効果が出るかわからないような不確定要素は数多くあります。

そのため、まずは小さいことから実施できるアクションをとる動きも全国に出ています。福井市の電車通勤推進に向けた取り組みなどがこれに該当します。

当メディアは、これからコンパクトシティ実現を目指す日本全国の行政から個人にまで、まちづくりのレファレンス・メディアになるものと信じています。住みやすいコンパクトシティへの引っ越しを検討中の方から、企業や役所での方針としてコンパクトシティ形成を目指していく皆様まで、各地のコンパクトシティの概要や、メリット・デメリットをつかめる、わかりやすいサイトを目指します。

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