コンパクトシティのデメリットとは何でしょうか。今後の日本で必要とされる「コンパクトシティ」ですが、現在は失敗例が目立ちます。その理由は、多すぎるコンパクトシティのデメリットやボトルネックにあります。
今回はなぜ日本の地方都市でコンパクトシティが進展しないのか?という視点で、行政・企業・住民それぞれの視点から紹介します。なお、コンパクトシティのメリットについてはこちらで紹介しています。
コンパクトシティのデメリット3選
まず、コンパクトシティが持つデメリットについて解説します。
デメリット1:家が高くなる

コンパクトシティのデメリットでまず浮かぶのは、生活コストが郊外よりもかかってしまうことです。
都市部の家賃は高いです。郊外なら3~4万円で住める間取りが、名古屋市や横浜市だと5~6万円かかり、東京に出ると8万円でやっと快適といえる家が見つかるという状況。さらに駐車場代も高くなります。「コンパクトシティ=割高」という構図が生まれます。
さらに住環境が悪化する可能性もあります。限られた土地に家を詰め込むことで、一人あたりの家の面積が小さくなる可能性があります。
デメリット2:東京よりも給与が落ちる

住宅コストが上がる一方で、東京の都心で暮らす人が地方のコンパクトシティに移住すれば、生活水準はそのままに家賃を2~3万円浮かせる事ができます。
そのため「地方に移住しよう!」と言いたくもなるのですが、今度は地元の給与水準が東京よりも落ちるという課題にぶつかります。
例えば東京の平均給与は「求人ボックス」の調べでは426万円。これが仙台市になると、348万円になります。
ボーナスを考慮しないと、それぞれの月給は35万円と29万円。家賃が2~3万円下がったところで…という数値です。
デメリット3:近隣との付き合い

イギリスで提唱された、コンパクトシティの元々の概念は「職住近接」と「賃貸住宅」。コンパクトシティを作っていく上で、良質な集合住宅は必須です。
すると、どうしても隣の部屋、あるいは上下階に配慮した生活を求められます。
共有部の管理や修繕といった維持の観点でも、あるいは「夜中の洗濯機や掃除機」「カラオケやピアノ、ダンス」「料理の臭い」「夜泣きする子ども」などの日常生活の観点でも、周りを気にしながら生きる必要があリます。
コンパクトシティのボトルネック5選
ここまでコンパクトシティの「デメリット」を紹介してきましたが、こうしたデメリットと同じくらいメリットはあります。(2回めですが、メリットはこちらで紹介しています)
では、いったいなにがコンパクトシティ推進の妨げなのでしょうか。次はボトルネックについて見ていきます。
ボトルネック1:憲法「どこに住んでもええよ」

日本国憲法第22条には「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」と明記されています。
つまりコンパクトシティをお題目に、行政のパワーで無理やり郊外暮らしを規制したり、逆に都心に移住させるのは、違憲となる可能性が高い。これがコンパクトシティの進まない最大のボトルネックと言えるのではないでしょうか。
ボトルネック2:引っ越し、どうするの。

コンパクトシティは、巻き込む側が有利で、巻き込まれる側は不便です。
つまり行政にとってはコストが下がり、不動産会社や引っ越し会社にはビジネスチャンスになるわけですが、これまで郊外に住んでいた人の引っ越しや、空き家問題が新たに生じます。
こうした引っ越しや空き家の解体は、投資効果が薄かったり、全くない場合もあります。
大掛かりな引っ越しは10万円以上、そして空き家を潰すのには100万円以上かかることもあるでしょう。それを行政や企業が補助するか?と考えた場合、「郊外の住民を街の中心部に移す」というまちづくりは、とっても難しいんです。
ボトルネック3:税金が使われるのを良しとしない人の存在

今年開業した「宇都宮ライトライン」は、日本のコンパクトシティを大きく推進した立役者だと考えます。
しかし、宇都宮市民からの公開質問状を見ると「市の人口のわずか約 1.2%しか利用しない路面電車を公共交通と称し、運行に関わる設備費一式の費用をなぜ残りの市民が負担しなければならないか」などの厳しい質問が寄せられています。
こうした人らに、「バスも便利になる」「1.2%の住民と市外の人がLRTに乗れば渋滞が減る」「駅周辺の経済が活性化してトータルでは儲かる」「将来の高齢化と人口減少に対応できる」など説明しても、そもそも「自分がお金の一部を負担すること」が不満なわけですから、地元の理解を100%得るのは無理です。
地方のローカル線でも、これまでJRが全部やっていたからOKだったけど、市の税金で維持しようとすると「無駄遣い反対」、じゃあ廃止といったら「市民の足がー 街の衰退がー」という意見が絶対出ます。どうすれば。
ボトルネック4:「逆線引き」で資産急落

先述した「自分のお金」という視点では、さらに根深い問題があります。それが「逆線引き」です。
「逆線引き」とは、それまで市街化区域にあったエリアを市街化調整区域に戻すことを指します。
市街化調整区域は「市街化を抑制すべき区域」ですから、そのエリアでのまちづくりは困難になります。特に個人用住宅の新築は、農業関係者などでない限り難しくなります。
仮にコンパクトシティを推進する自治体が集住を推進するために逆線引きをした場合、どのようなことが起こるでしょうか。
日経クロステックが2022年に報じた記事では、北九州市の災害リスクが高い地域で「逆線引き」しようとした結果、資産価値が下がるといった住民の反発を受けて規模を縮小したという事例が紹介されています。
逆線引きは、「行政が住民の貯金を奪う」ようなものです。逆線引きを執行するのは難易度の高い行動といえます。
じゃあ、その資産を補填すれば?と思うわけですが、今度は「なぜ自分で過疎地に住むという選択をした住民のために、私の税金を使うの?」という住民が出てくるわけで。
街全体が黒字かどうかの「クロスセクター」という考え方が住民や市議会で受け入れられない限り、地方のコンパクトシティで成功するのは難しいでしょう。
ボトルネック5:やっぱり、マイカーが便利。

コンパクトシティを考える以上、公共交通の充実は不可欠です。一方で地方になるほど、マイカーが便利です。
東京ではクルマがない家はおろか、「免許を持たない人」も大勢います。一方で大宮や横浜を離れると一家に一台のクルマが当たり前になり、静岡や群馬まで行くと、一人一台のクルマが必須になります。
マイカーが増えるほど、鉄道の乗客は減り、鉄道の本数が減って、さらにマイカーを選ぶ人が増え、そして鉄道の乗客がもっともっと減り…そんな悪いスパイラルに陥った街は数知れません。結果、マイカーだらけの地方都市が出来上がります。
トヨタやホンダ、スズキや日産といった大企業自動車メーカーが日本から多く出ていることは歓迎すべきですが、その裏には何社もの鉄道会社やバス、タクシー会社の犠牲があったことを覚えておくべきでしょう。
まとめ
コンパクトシティの課題について、今回触れてみました。これ以外にもコンパクトシティの推進には課題が山積みです。
そもそも「日本国」という概念ができて以来、街を小さくするという取り組みはなかったわけです。難しいのは当たり前。大切なのはすこしずつでも前に進める努力です。
そのためには「コンパクトシティが良いものである」という考えをさらに進めていくこと、コンパクトシティにかかる費用を行政ではなく営利企業が出せるようなビジネス環境を構築することなのではないでしょうか。
参考文献
東急「田園都市線」は「田園都市」ではない!? 誤ったまちづくりが生んだ通勤地獄
https://compact-city.com/denen-toshi/
求人ボックス
https://xn--pckua2a7gp15o89zb.com/
宇都宮市 公開質問状と回答
https://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/kurashi/kotsu/lrt/1028853/1013424/1013419.html
北九州市「逆線引き」が大失速、危険地の開発抑制に住民反発
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00142/01282/