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nexus構想:東急「駅遠」のまちづくりに見る、将来世代が求められる「負担」とは

nexus構想。東急が取り組むこのプロジェクトは、資本や人口のある関東の東急グループに見合わない、小さくて、ささやかなまちづくりの試みです。

しかし、規模が小さいプロジェクトだからこそ、予算の限られた地方のまちづくりに役立つヒントが隠れていると言えます。それに、このプロジェクトには日本の未来の姿が見え隠れします。

今回は東急グループのnexus構想および、「nexusチャレンジパーク早野」の事例から、今後日本の課題となりうる、縮退するエリアでのまちづくりを学びます。

nexus構想とは?nexus構想での取り組み

nexus構想は、「生活者起点でのまちづくり」をテーマとした東急の取り組みです。

2022年4月、田園都市線「あざみ野」からバスで10分の、虹ヶ丘団地エリアに「nexusチャレンジパーク早野」を開業。自然がある川崎市のはずれで、マルシェやイベントなどができる拠点としてオープンしました。

同パーク内には、「Niji Farm」(ニジファーム) と呼ばれる市民農園、焚き火スペース「Fire Place」、事務所「nexus Lab」、広場が設置されています。

見かけは単なる広場なのですが、ここに地元発のイベントと「自然」という非日常を持ち込むことで、人を集めています。川崎のはずれといえども団地エリア。自然や農園という概念は、地元の子供達にとって新鮮なものです。ヤギがいることもあります。

3月に実施された「Hello neighbors!-歩きたくなるまち週間-」では、移動販売マルシェ、青空図書館、まちあるきイベント、自動運転バス実証実験などを行い、延べ1800人を動員。運営は軌道に乗っているようです。

nexus構想に見る、田都線「田園都市構想」への先祖返り

同パークの公式サイトを見ると、

「本構想は、郊外における生活者起点での自由で豊かな暮らしの実現を目指し、「職」「住」「遊」「学」近接・融合型の「歩きたくなるまち(Walkable Neighborhood)」を創り出す取り組み」

という解説があります。このテキストには、どことなく、100年前のイギリスで提唱された「田園都市構想」に田園都市線沿線が里帰りしたような感覚を覚えます。

過去の記事で指摘しましたが、東急田園都市線は事業として見れば大きな成功を収めた路線ですが、仮に上記の「田園都市構想」がお手本だった場合、まちづくりとしては失敗作です。

その要因は「渋谷中心のまちづくり」と「東急主導のまちづくり」にあります。つまり渋谷に大規模な投資を行い、東急沿線から渋谷に通ってもらう。東急としては大きな収益になりますが、街はただ帰って寝るための場所、電車はパンパンの通勤地獄となります。

nexus構想は、渋谷拠点でもなければ東急主導でもありません。地元の方やスポンサーが、地域のための場所として、同パークを活用しています。そしてただの交流の場ではなく、「職」「住」「遊」「学」の場にしようとしています。

ネクサスとはもともと「連結」「連鎖」「繋がり」を意味する言葉であり、東急の「nexus構想」もまた、地域で完結する「田園都市構想」を再び実現するための第一歩であるとみることが出来ます。

東急は楽して稼ぐ

そもそも東急グループは、鉄道と不動産を軸に地域の価値を高めることで人を集めて儲けてきた企業です。

従来の渋谷や二子玉川、南町田のように、東急不動産と東急建設とが街を作り、東急傘下のビルに東急関連のテナントを入れ、インフラ・警備などの維持管理なども自社でやっちゃう。そしてお客さんを東急電鉄や東急バスで運ぶ。インターネットや決済まで東急グループの息がかかる。そんな美味しいところを全部自分たちで持っていくスタンスです。

一方でnexus構想は真逆です。

まず、東急の仕事は大規模再開発に比べほんの僅かです。同社がやったことと言えば、再開発の旨味のない空き地をフリースペースとして提供するだけ。

いや厳密にはもうちょっと手間やコストがかかっていると思いますが、サイトやプレスリリースなどに散見される「生活者起点」「利用者によって自律的に運営」「地域の共助」「共助の拠点」などのキーワードを見ると、かなり地元に権限委譲していることは確かです。

場所を用意したあとは、地元の方が主体的に動いたり、スポンサーが集まったりするわけで、東急は場所の維持管理と多少の営業活動ができていれば、

・交流の場の創出(≒地域経済活性化)
・訪問者の交通利用(≒東急バス)
・地域住民のつなぎとめ(≒東急ユーザーの維持)

など、勝手に利益を生み出してくれます。

今年開業した歌舞伎町タワーや、渋谷の大小さまざまな再開発と比べてリターンはたしかに少ないかもしれませんが、取るリスクも少ない。だからこそ、好きにやれる環境として、おおらかな運営ができるのだと思います。

住民の自律的な負担があって初めて成り立つ

一方で地元住民としては、東急による運営や管理、雇用を当てにすることが出来ません。参加して場所を維持するという、ある種の負担が求められます。ここに日本の未来がどうしても垣間見えます。

つまり、賑わいを求めずとも、日常を維持していくのであれば「隣組」「五人組」「もやい」といった、昭和期まであった地域の支え合いコミュニティ、言い換えれば住民の自律的な負担が必要になるということです。

都市の賃貸マンションに暮らしていると、上下水道の不良であれ、ネットの不具合であれ、何らかのサービスに連絡して直してもらうことが当たり前です。そしてその対価は普段のサービス料金のなかに含まれているはずです。

しかし、地元からそれを支える人がいなくなったらどうでしょうか?単純に人口の減少だけではなく、労働者がその仕事をする旨味を感じなくなったり、企業や自治体が維持管理の必要性や収益性を見失ったりすれば、あっという間にその土地の現代レベルの生活は崩壊します。

金銭のやり取りで解決しない以上、その先にあるのは、貨幣経済ではくくれない昔ながらの支え合い社会であると考えます。

nexus構想が示唆する日本の未来

nexus構想は、「社会・環境の課題を地域単位に最小化する」ことをテーマの1つとしています。

聞こえは良いですが、この言葉の解像度を高めて言えば、「東急のような一流企業でも、人手不足(社会・環境の課題)は解決できないから、ゆくゆくビジネスの旨味がない土地では住民の自助努力をお願いするよ(地域単位に最小化)」という予告にほかなりません。

しかし、一方でnexus構想は、縮退が進む土地であっても、自発的な住民さえいれば、非常に限られた投資で場を維持できるいうことを証明していることも事実。結果として、それはコンパクトシティの「対象外」となったエリアに当てる光となる可能性があります。

まとめ

駅遠の悪立地であっても、成功事例を生み出せるか。nexus構想はそのリトマス紙であると感じます。

東急は「THE ROYAL EXPRESS」という観光列車を北海道、四国で走らせてきた実績があり、もはや「”東京”急行電鉄」ではなくなりつつあります。まちづくりのノウハウとして、ぜひともこのnexus構想を地方へ拡げてほしいと思います。

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参考文献

https://nexus-dento.com/about.pdf
https://nexus-dento.com/
https://www.instagram.com/ncp_hayano/
https://www.townnews.co.jp/0205/2023/03/17/669465.html
https://suumo.jp/journal/2023/06/12/196256/
https://compact-city.com/denen-toshi/
https://www.tokyu.co.jp/company/news/list/Pid=post_403.html


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