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「アレ」がある街はコンパクトシティになりやすい

「コンパクトシティになりやすい街」があるとしたらどういったものでしょうか?

様々な街のなかで、コンパクトシティに向く街と向かない街があります。

そのなかで「アレ」があるとコンパクトシティの傾向が強いという共通項を3つご紹介します。

1:「路面電車」がある街はコンパクト

まず、路面電車が存在する街は、基本的にコンパクトな作りをしていることが多いです。

例えば日本のコンパクトシティのお手本と言われる富山県でも、路面電車が走っています。さらに、コンパクトシティの成功例と言われるアメリカのポートランドでは「MAX」と呼ばれる地域交通によりコンパクト化が進んだと言われています。

路面電車のある街がコンパクトシティになる理由は2つ。

人口が少ない時代に引かれた線路が街の骨組みになった

路面電車の多くは大正~昭和期に出来たものです。現在より人口は半分以上少なく、自家用車もレアな時代でした。おのずと、路面電車が走る街区に人が集まるようになります。

例えば1925年に路面電車が開業した愛知県豊橋市の1950年代の地図を見ると、駅から路面電車の路線に沿って建物が密集し、路面電車から離れると田園が広がっている事がわかります。

路面電車を軸に街が形成されていれば、公共施設や有力企業のオフィス、あるいはマンションなども路面電車沿いに集まります。

そのため、勝手にコンパクトシティが出来上がっていったのです。

行動範囲が制限され、徒歩移動も増える

路面電車は、当たり前ですが線路上しか走ることが出来ません。クルマのように自由に行き来するわけにはいかなくなります。そして、路面電車から降りたあとは、基本的には徒歩移動になります。

現在の地方都市はマイカーだらけですが、今後、いっそう高齢化が進むことを考えると、高齢者を中心に免許の返納が進むことが予想出来ます。さらに若年層にとっては、物価高やEV、ガソリン高騰などのいくつもの要因で自動車の価格と維持費が高くなる一方、高い税金や住宅・食品などの値上がりで、可処分所得はドンドン減少します。自動車を持たない暮らしを選ぶ層は拡大するでしょう。

そういった層が路面電車移動をし、駅からは徒歩移動という生活スタイルを選ぶはず。自ずと商店街やモールのような、一箇所に様々な施設がまとまっている場所に人口が集中しやすくなります。結果として、賑わいのあるウォーカブルな街が形成されていきます。

このため、路面電車を残した街はすでにある程度コンパクトシティになっており、さらに今後の人口減少や貧困化が進むことで、一層コンパクトシティに暮らす経済的・物質的なメリットが高まっていくと考えられます。

2:「平城」がある街はコンパクト

「お城のある街」も、コンパクトシティになりやすい素質があります。

もともと城は、戦国時代まで、防御のために山に建設するものでした。これが徐々に丘に作られ、更に交通の便のいい平地に作られ、政治の拠点として使われるようになりました。

このうち、平地の城を「平城」というのですが、コンパクトシティを形成する街の多くには平城やその跡地があります。

代表例が、国宝天守5城に指定されている彦根城、犬山城、松本城、姫路城、松江城ではないでしょうか。

考えられる理由は概ね下記の4点。

・城下町だった町割りがそのまま残ったため。
・元々城だった場所が役所や裁判所、学校などの街の中心部になったため。
・地元住民が城を大切にするため。
・そもそも城が利便性の高い場所に作られたため。

そのため戦災や災害を免れた日本の城下町を見ていくと、駅からお城までのアクセスが異常に良く、その道のりも、非常にキレイに整備されています。

例えば彦根城は駅から20分程度歩く必要がありますが、通りはキレイに整備されており、通りにはショッピングモールや市役所が並び、城郭の一部は公園や大学、高校や博物館などに活用されています。

住宅もほどよく立地しており、駅から城にかけての住民にとって、彦根は車いらずのコンパクトシティと呼んで差し支えないでしょう。

それ以外の街も、駅から城までがキレイに整備されており、なおかつ観光と商業と住宅がいいバランスで入り混じっています。住んでも訪れても楽しく便利なコンパクトシティ、それが平城のある街です。

また、広島城、小田原城、熊本城、新潟県の新発田城、愛媛県の松山城が立地する地図を見ても、かなりコンパクトシティの色が強く出ています。

一方で、都市伝説レベルながら、城の残った地域の住民は地元愛が強い傾向にあり、排他的という話もチラホラ。このあたりを客観的に語るのは無理とは思いますが、かつて城下町が防御のために作られていたことを思うと、さもありなん、と感じます。

なお、東京や名古屋、大阪などは城がありますが、そもそもコンパクトシティと言えないほどに街が栄えていること、そして戦災で街が原型を残さず焼かれていることから、手放しでコンパクトシティ と呼べるかは疑問です。

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3:雪の降る街はコンパクト

雪国もコンパクトシティになりやすい傾向があります。

これは、富山だけでなく、上越市などの地方再生のモデル都市や、コンパクトシティ化に失敗したといわれる青森市や津山市でも見られる傾向です。

理由は単純で、雪国特有の除雪コストがかかるため。

元・青森市長の佐々木誠造氏は「青森市の除雪コストは年間30〜40億円にも上り、財政を圧迫していました。しかも郊外化によって年々、増加傾向にあったのです」とインタビューに答えています(コンパクトシティはなぜ失敗するのか 富山、青森から見る居住の自由 https://news.yahoo.co.jp/feature/423/

経済的合理性から、コンパクトシティにするメリットが雪のないエリアよりも遥かに大きくなります。

また冬季のマイカー移動が難しくなったり、雪下ろしなど近所同士の協力が不可欠なためにスプロール化が起きにくかったり、太平洋側に比べて地形が山がちで平地が少ないことも、コンパクトシティになりやすい要因ではないでしょうか。

まとめ

コンパクトシティの共通項を見ていくと、「鉄道や城といった中世から近代にかけての人の営みを守ってきた地域」という要素が見えてきました。

逆に、昭和期のマイカー中心かつ一戸建ての持ち家志向が強いエリアほど、コンパクトではないといえます。いわゆる「ニュータウン」「ベッドタウン」の地域では、コンパクトシティを作るのが難しいでしょうし、将来的な賑わい、利便性という観点でも、衰退しやすい土地なのではないでしょうか。

こうしたニュータウン、ベッドタウンといった地域から、自発的にコンパクトシティへ移り住む施策が求められる時代が近づいています。そういった際に、「路面電車」「城」「雪国」などのキーワードが活きてくるのではないでしょうか。

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参考文献

続・ポートランド ロマンス都市の誕生 
https://amzn.to/48mss6O

富山市のめざすコンパクトシティ
https://www.pref.toyama.jp/documents/29782/05_1110shiryo2.pdf

コンパクトシティはなぜ失敗するのか 富山、青森から見る居住の自由https://news.yahoo.co.jp/feature/423/

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