みなさんは、「ビワイチ」という言葉を聞いたことはありますか?
私はありません。しかし、滋賀県守山市では、合言葉のようにこの「ビワイチ」という言葉が使われています。そしてサイクリストにこの言葉が知られた結果、年間10万人の観光客が守山市を訪れるようになりました。
守山市が手掛ける「ビワイチ」とは?今回はそんなテーマで見ていきます。よろしくお願い致します。
守山市の概要
守山市は京阪地区のベッドタウンとして、年々人口が増えている街です。2023年時点で人口は8万5000人を超えています。
西には琵琶湖があります。琵琶湖は北湖・南湖にわけることができ、守山市はこの北湖南湖の境目にあります。
佐川美術館という美術館や、ピエリ守山(ショッピングモール)が湖畔にあり、その近くから琵琶湖大橋という橋が伸び、対岸の大津市まで150円で渡れます。
鉄道駅に「守山駅」がありますが、街の南東にあり、町の大半は鉄道空白地帯です。
街の北側には野洲川が流れています。こういうのって川が市境になることが多いと思うんですが、守山市の場合は野洲川を超えて、ちょっと行くと隣の栗東市にたどり着きます。
そもそも「ビワイチ」って?
そもそもビワイチって、何なんでしょう。
「びわ」は、琵琶湖のことを指すと見て間違いないでしょう。じゃ、「イチ」って何なん。
とりあえず守山市のサイトをいろいろ調べてみましたが、正解にはたどり着けず。とはいえ、これだけのために市役所に問い合わせメールしたり電話するのは迷惑行為になりかねないので、いったん迷宮入りさせておきます。
たぶん「一周」の「一」だと思いますが、もし正解をご存じの方がいれば教えてください。
守山市「ビワイチ」施策とは?
なぜ、守山市が「自転車」を推すか、について見ていきましょう。
守山市は瀬戸内エリアの「しまなみ海道」の成功例から、琵琶湖をサイクリングの街にしようと考えているようです。
しまなみ海道は広島と愛媛にかかる橋。ここを自転車で横断する取り組みが活発です。守山市は琵琶湖に面しており、関西からのアクセスも良く、しまなみ海道に比べると関東からも比較的訪れやすいことから、琵琶湖をサイクリングの土地にしようと、施策を打つようになりました。
国土交通省の資料によると、守山市が「サイクリング」を推しだしたのは、2015年10月。
市地方創生総合戦略「守山市まち・ひと・しごと創生総合戦略」のひとつに、「自転車を軸とした観光振興」を位置付けたのが始まりです。
現在、琵琶湖をぐるっと1周するルートの紹介や専用アプリの配信、公式サイトの運営などを手広く行っています。
著名サイクルショップを誘致
※画像は「ジャイアントストアびわ湖守山」公式ページより
翌年、「ジャイアントストアびわ湖守山」が開店。このジャイアントストアはスポーツサイクリングに関するアイテムを複数扱う店で、国内38店舗運営しています。守山市は、市内のマリオットホテルにこの店舗を誘致。ホテルでも、公式のアクティビティに「ビワイチ」を用意するようになりました。
2015年にはジャイアントストアの社長を呼んだ「ビワイチ」の体験会や意見交換を実施。サイクリングを楽しむ土台を整えてきました。
そもそも2011年から2023年まで市長を3期務めた宮本和宏 前市長は、東京大学運動会自転車部出身。その趣味や人脈を活かし、誘致に成功したようです。
自転車の購入に補助金
また、守山市民に向けた自転車購入補助金も実施。これは2023年の現在も続いており、指定のサイクルショップで自転車を購入し、市に申請することで、購入金額のおよそ20%が戻ってきます(上限金額あり)。
サイクリストの公園まで整備
※画像は田中セシルオフィシャルブログ「CECIL Dance! Step! Jump!」より
さらに、公園も整備。守山市「第2なぎさ公園」には『琵琶湖サイクリストの聖地碑』という碑があります。出来たのは2017年。碑のモデルは田中セシルさんという方です。
10万人が訪れるサイクリングの街に
こうした取り組みが広がり、2018年11月には「自転車まちづくり首長会」が発足、今治市長を筆頭に373自治体が加盟するようになりました。
さらに、2022年4月には滋賀県によって「ビワイチ推進条例」が施行。この条例では「ビワイチの日」を定めるなど、県全体でサイクリングを盛り上げる施策が盛り込まれています。
そして滋賀県が2023年4月に発表した「琵琶湖一周サイクリング体験者数」は、9万8000人に。
コロナで落ち込みはありましたが、ピークの2019年(10万9000人)にかなり近づいた数値です。
なお、この数値は配信しているサイクリングアプリの利用状況と、実際の自転車の数をカウントする機器の数値から推計したものとしています。
他の湖畔の町でも「ビワイチ」
琵琶湖に面している滋賀県の自治体は、全部で10市あります。守山市から時計回りに見ていくと、下記のとおり。
(守山市、草津市、大津市、高島市、長浜市、米原市、彦根市、東近江市、近江八幡市、野洲市)
驚くことに、そのなかで彦根市・長浜市・高島市を除く市のHPで「ビワイチ」をキーワードにした広報活動が実施されていました。草津市は元乃木坂46の永島聖羅さんが出演する専用動画まで作っています。安くなかったでしょうに。
いいなと思えるのは、従来の町おこしのように「市町村」の単位にとどまらず、経路上の街を巻き込んで、県という単位で観光客や関係人口を生み出そうとしていることでしょう。それぞれの街に1つでもサイクリスト向けの寄り道スポットがあるだけで、だいぶ観光客としても訪れやすくなるはず。
琵琶湖の「ミズベリング」を活かす
サイクリングの名所にはいくつか共通点があり、そのなかの1つに「水辺」という要素があると言えます。霞ヶ浦やしまなみ海道、南紀白浜、房総半島などがその一例と言えるでしょう。
大自然や、少ない信号や、ほどよいアップダウンがサイクリストにとって心地いい(んだと思われます)。
普段、守山市になにもゆかりがない人が「守山市に行こう!」となるのは難しいでしょう。比叡山延暦寺のある大津市や、彦根城のある彦根市と比べ、観光資源という意味でめぼしいものは琵琶湖と美術館のみという環境だからです。
しかし、自転車を楽しむ拠点として整備を行ったことで、10万人の観光客を集めたことは特筆に値するでしょう。「うちの街にはなにもない…」と思っていても、「趣味」という軸で深掘すると、見えてくるものがあるという良い事例だと言えます。
県がさだめた「ビワイチの日」は11月3日。自転車を担いで滋賀まで出かけてみてはいかが?
参考
https://www.city.moriyama.lg.jp/biwaichi/
https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202009/202009q.pdf
https://www.kkr.mlit.go.jp/river/manabuasobu/qgl8vl00000006zw-att/slide06.pdf
https://www.biwako-marriott.com/activity/cycling.html
https://www.pref.shiga.lg.jp/ippan/shigotosangyou/kanko/325440.html
https://www.pref.shiga.lg.jp/ippan/shigotosangyou/kanko/331359.html
[…] 自転車で琵琶湖をめぐる観光ルートが整備されており、「ビワイチ」の呼称で徐々にサイクリストに知られるようになってきました。県の面積の6分の1が湖という、まさにミズベリングのための地域である琵琶湖。具体的な取り組みについてはこちらの記事でご確認ください。 […]