前回の福井県福井市の記事で紹介したコンパクトシティの施策、「電車通勤の楽園へ」。非常にユニークな取り組みと言えます。その詳細と、取り組みに至った背景を紹介します。
電車通勤の楽園へ その具体的な内容とは

2022年12月、福井市は「電車通勤の楽園へ」と銘打って、マイカー通勤を電車通勤へシフトするキャンペーンを開始しました。
具体的には、毎週金曜日を「カー・セーブデー」として、福井鉄道は1ヶ月間、金曜日2,920円で乗り放題となるチケットを販売。えちぜん鉄道はカーセーブデー回数券として、通常11枚の回数券が13枚セットになった金券を販売します。これらの資金は市から賄われます。
まずはいわゆる「華金」だけでも電車に乗ろうよという試みと言えそうです。仕事の疲れが溜まりやすい日、またビールが最も欲しくなる日だからこそのキャンペーンなのでしょうか。
楽園化によって実現するコンパクトライフ

「電車通勤の楽園へ」によって、どのようなメリットが考えられるか、洗い出してみます。
公式サイトで謳われる、利用者向けのメリットには下記のようなものがあります
・通勤中も自由に過ごせる
→福井―勝山を電車通勤した場合、年間464時間の自由時間が生まれる
・駐車場代やガソリン代よりも節約できる
→福井ー芦原温泉駅で1年16.7万円の節約
・金曜日の交通費が割引になる
→福井鉄道の場合、2,920円で毎週金曜乗り放題
(金曜×4回、越前武生ー田原町で使えば280円程度の節約に)
割引に関しては少々物足りない印象ですが、原資が地方自治体の税金から出ているという点に限って言えば革新的な取り組みと言えそうです。
もちろん、メリットは公式サイトに載っていること以外にも多数あります。特に、
・自動車が減り、渋滞が減る
・駅周辺のにぎわいが増加
・駅周辺への居住誘導
などのコンパクトシティにまつわる施策に繋がりやすくなります。
福井が鉄道に投資できる理由

なぜ福井市は、こういった大胆な施策を打てるのでしょうか。その背景には、福井市がかつて鉄道の停止により大失敗をした過去が関係していそうです。
負の社会実験
近年よく話題となる、北海道や中国地方を中心とした鉄道の存廃問題。福井でも鉄道の存廃をめぐり、ゴタゴタした時期がありました。
福井は過去に、鉄道を廃線したことで痛い目に遭ったことがありました。京福電鉄(現・えちぜん鉄道)が2000年・2001年に事故を立て続けに起こしたことで、結果として廃止同然となった時期がありました。
(事故を起こす→国交省からバスにしろと言われる→運行休止)
しかし、運行休止後、沿線の輸送は麻痺しました。えちぜん鉄道沿線の道路は必ずしも広くなく、代行バスが走るようになった一方で、渋滞に巻き込まれて定時性が悪化。時間通りに着かないバスを嫌った住民がマイカーへシフトし、さらに渋滞が悪化、またバスが遅延するようになり…結果的に、鉄道利用客の4割は代行バスでなくマイカーへシフトしました。そんな悪循環が福井にはあったのです。
道路の立ち往生
また、事故のあとも輸送に関する諸問題が発生しています。例えば立ち往生です。
2018年2月に発生した大規模な立ち往生では、発生から収束までに60時間かかったことが問題視されました。
物流、人流への問題はもちろん、場合によっては体調不良者や死者が出ます。
対策としては、お金をかけて道路を雪に負けないような高規格なものにするというのがまず思い浮かびます。
雪国の道路対策として、福井でも見られるのは「消雪パイプ」と呼ばれる道路に水を流す仕組みや、路面に不凍液を入れたパイプを廻らず融雪道路などがあります。
しかしこの投資は冬の間しか機能しません。建設だけではなく、利用時にも水道光熱費がかかり、メンテナンスのランコスも重たくのしかかります。
さらに言ってしまえば、立ち往生のトリガーとなるのは真冬の雪国をノーマルタイヤで走ったり、二駆でスタックしたりと言う車です。このあたりは道路側にいくら投資しても、結局モラルの問題とみなされてしまいます。
だったら、クルマが不要な層には電車やバスにシフトしてもらおうという考えが根底にあってもおかしく有りません。
福井が鉄道に投資できる理由は、鉄道の重要性をしっかり認識しているためです。
車もサブスクなら「電車のサブスク」だって良い

2018年くらいからでしょうか。右をみても左をみても月額、月額となってきています。アマゾンやグーグルから始まり、ネットを飛び出して家具家電、衣類、日用品、自動車までサブスクリプションです。クルマの場合はトヨタ系列のKINTOやカーリース会社のサブスク、中古車のサブスクもあります。
一方で鉄道のサブスクリプションは「定期券」という昭和時代の概念からほとんど変化はありません。かつて東急電鉄が自社サービスのサブスクリプション「Tuitui」を打ち出しましたが、1年ちょっとでサービスは静かに終了しています。
いまこそ、鉄道のサブスクが見直されても良いのかもしれません。定期券なんて縛りを設けたものではなく、1万円で市内乗り放題という打ち出し方や、1週間に何回まで利用できておいくら、指定した曜日や日時でおいくら…という価格設定の商品も、スイカなどの交通系ICカードが普及したエリアでは実現可能なのではないかと思います。


参考
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26721690Z00C18A2000000/
[…] 動きも全国に出ています。福井市の電車通勤推進に向けた取り組みなどがこれに該当します。 […]
[…] へ」の隠された意図。交通先進都市・福井の施策がすごすぎたhttps://compact-city.com/fukui-rakuen/ […]
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