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幻の「静岡LRT」計画があったという話

静岡LRTについての話題。

静岡市と清水市に、静岡LRTの計画があったことはあまり知られていない。具体的な路線が見えていたものの、採算性などから議論は10年止まっている。しかし今後のまちづくりの動向によっては、この幻のLRT計画が復活する可能性もある。

静岡LRTで、静岡型のコンパクトシティを

静岡LRT_新静岡駅

2011年12月末、当時の「静岡市LRT導入研究会」によって「静岡市へのLRT導入に関する提言書」が市に提出された。この提言書では「静岡型コンパクトシティ」という構想をベースに、高齢者でも利用しやすく環境負荷が少ない、なおかつ街の活性化につながる「LRT」導入が提案された。

そもそも、LRTとは何?

静岡LRT_宇都宮LRT

そもそも、LRT(次世代型路面電車システム)とはなんだろうか。これは「Light Rail Transit(ライト・レール・トランジット)の頭文字を取ったもの。 日本初の本格的LRTは2006年に開業した「富山ライトレール」で、昨年開業した宇都宮LRTは2例目だ。

ただ、現状国内で路面電車とLRTが明確に区分されているとは言い難い。芳賀・宇都宮LRT「MOVENEXT UTSUNOMIYA」ではLRTについて、「各種交通との連携や低床式車両(LRV)の活用、軌道・停留場の改良による乗降の容易性などの面で優れた特徴がある次世代の交通システムのこと」と説明するが、例えば東京の都電荒川線(東京さくらトラム)や東急世田谷線も全駅がバリアフリー化され、バスや地下鉄、JRとの乗り換えも可能だが、LRTを名乗ってはいない。2024年時点では旧来の路面電車と区別する意義は薄いといえる。

この記事では、かつて静岡を走っていた軌道を路面電車、2011年から検討されてきた軌道をLRTと定義して書いていく。

静岡LRT、具体的な検討路線とは

静岡LRT_検討路線

提案では、静岡、東静岡、清水の各中心部を起点に、街の周辺をさらに便利にするための路線として静岡LRTが提案された。

具体的には、静岡鉄道の新静岡駅から七間町をつなぐ「葵」ルート、駿河区役所を結ぶ「駿河」ルート、また新清水駅からJR清水駅およびを駿河湾フェリーの発着する日の出をつなぐ「清水ルート」を提唱。静岡鉄道への乗り入れも視野に、敷設を提案をした。

提案書をうけて、2012年2012年から市内へのLRT導入について調査・検討する「静岡市清水地区LRT導入検討協議会」を設立した。

静岡LRTで具体的な検討案が出てきたのは静岡市の2ルートと、清水市の2ルートの計4ルートだ。

1 静岡Aルート

静岡Aルートは、新静岡から昭和町交差点を右折して七間町を複線で結ぶ約1kmの路線

2 静岡Bルート

静岡Bルートは、新静岡から静岡駅下をくぐり、アピタまでまっすぐ南下し左折、駿河区役所を複線で結ぶ約2.6kmの路線

3 清水Aルート

清水Aルートは、旧清水市内線と近い。新清水から日の出までを単線で結ぶ、約1.6kmの路線

4 清水Bルート

清水Bルートは、新清水駅と清水駅を単線で結ぶ、約0.8kmの路線

かつての静岡市電復活を構想

静岡LRT_静岡鉄道の古い車両

実は「静岡Aルート」と清水のA・Bルートは、似た路線があった。静岡鉄道がかつて運営していた路面電車だ。

静岡ルートと似た静岡鉄道「静岡市内線」の路線長はたった2kmだが、静岡駅前から新静岡、県庁を経て安西地区までを結んだ。1962年に廃線となったが、その理由はネット上には見当たらない。おそらく、他の都市と同様に、自動車が多く走るようになり、路面電車が通行の邪魔と言われたためと思われる。

また清水ルートについても静岡鉄道の「清水市内線」が1975年まで走っていた。これは全長4.6kmで、港町と横砂を結んだ。「ちびまる子ちゃん」でも描かれた1974年の「七夕豪雨」と呼ばれる災害を受けて休止、翌年に復旧を断念し廃線となった。

なぜ静岡LRTは「幻」になってしまったのか

静岡LRT_検討ルート図

結局、この静岡LRT構想は2013年を最後に議論されていない。検討された路線がすべて、採算が取れないという結論が出たためだ。

4路線のうち、唯一採算が合うとされたのが、静岡Aルート、いわゆる葵ルートだ。ルート上には多数のオフィスや商業施設、ホテル、マンションがある。また、クルマの駐車場は限られるため、公共交通ができれば静岡鉄道線沿線にクルマを留めて都心に向かう、パークアンドライドの価値が高まる。

同協議会では、静岡鉄道線の乗り換えを考慮すれば1日1800~3000名の利用が見込めるとした。76億円をかけて毎時5分~10分感覚で、150円で走れば、採算が合うとされた。

ただ、単独の整備では都心部に変電所や車両基地を整備しないといけない。投資額はかさみ、収益力は落ちるとした。そこで同時にBルートを、となるが、こちらは1日700名~1100名の需要予測に対し、採算が合うには4100人の利用が必要だとした。

さらに、都心部のクルマを減らさなければ円滑な運転は難しい。都心部への流入規制、あるいは禁止してまちづくりをする必要が出てくる。

そのため、必要性があるとしながらも、関係者や市民との連携が必要と結論づけ、以降この協議会で目立った活動は見られない。

静岡の恩田原・片山地区再開発はLRT議論のチャンス?

静岡LRT_再開発区域の恩田原片山地区のGoogleMap空撮

仮に静岡LRTに充分に需要が見込めたとしても、道路が狭いことや、路線長の難しさ、バストの棲み分け、あるいは東日本大震災が起こり大不況であった時代を思うと、両手を挙げてぜひ建設しようという機運がなかったのも頷ける。

ただし、今(2024年時点)は事情が異なる。市南部では「恩田原・片山土地区画整理事業」が動いている。すでに2026年度中の換地処分に向けた工業地帯の整備が進んでおり、この工業団地の整備とLRTの「駿河ルート(静岡Bルート)」議論がセットで発生しても、不思議ではない。

区画整理事業では、電気機械器具関連製造業、食品・化粧品関連製造業、プラモデル関連製造業、道路貨物運送業等の4業種の集積を目指した開発を約88.5億円かけて実施する計画で、これが完成すれば大きな移動ニーズが見込めそうだ。

宇都宮LRTも、駅や街の中心部を抜けて工業団地へと至るルートにすることで乗客をつかんだ。静岡LRTでも、駿河区役所からさらに1kmほど軌道を伸ばせば、新しい工業団地へたどり着く。すると東海道本線や静岡鉄道沿線から静岡LRTに乗ることで、簡単に通勤ができるようになる。沿線には商業施設や駿河総合高校、静岡競輪場など、一定の乗客ニーズが見込める施設も存在する。

さらに、この工業地帯を南へ抜けて東名高速あたりまで伸ばせば、静岡大学へのアクセスルートにもなる。高速のインターチェンジと組み合わせて、パークアンドライドを整備するのも視野に入るだろう。再度、議論が始まることを期待したい。

静岡LRT_三保の松原

また、清水市については、検討断念以降に三保の松原が世界遺産になった。もし折戸湾に架橋できるなら、世界遺産や大学、港湾施設へのアクセスルートとしての検討も可能と思われる。静岡LRTを造る機運は、今も高まり続けているのではないだろうか。

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