ライドシェアは地方のために。
2月下旬、昨年秋から動いてきたライドシェアの実施が決まった。NHKは全国20以上の自体がライドシェアを開始すると報じた。ただし、このライドシェアには数多くの制約がある。都市と地方でタクシー不足の属性が違うことも、ほぼ考慮されていない。交通インフラの救世主になるかは未知数だ。
4月から全国でライドシェアが解禁に
ライドシェアについては、すでに過疎地の交通空白地帯では特例があり、一部ではすでに認められている。これが4月から新たに、「自治体などからの委託」があれば実施可能になるなど、実施条件が緩和される見通しだ。
すでに開始を発表しているのは、石川県小松市、大分県別府市、富山県南砺市、京都府舞鶴市、熊本県高森町の5自治体。このうち、正月の震災で影響を受けた石川県小松市では、クルマを置いて避難した被災者に向けて一足早く2月29日からライドシェアを解禁する。他の自治体も4月から順次、導入を始める。
またタクシー会社各社や、アメリカのウーバー、国内のIT企業各社がライドシェア参入に乗り気だ。
ライドシェアのメリット
ライドシェア導入のメリットは、人手不足とそれによる台数不足の解消にほかならない。
全国ハイヤー・タクシー連合会の調査では、コロナ前後でタクシードライバーは約2割減ったという。2019年に29万人以上いたドライバーは、2023年時点で23万人強へ、6万人近く減少した。
また、平均年齢も58.3歳で、あと10年もすれば主力のドライバーは軒並み引退してしまうか、高齢者ドライバーとなり、安全性の懸念が出る。高齢化が進む地方では死活問題になりうる。
ライドシェアのリスク
一方で、たしかにライドシェアも万能薬ではない。「メルカリ」の役員を務めた青柳直樹氏がライドシェアの会社「newmo」を立ち上げたことからも分かる通り、ライドシェアは「移動のメルカリ」だ。
普通に使う分には、便利でお得になるだろう。ただし、メルカリでは度々、転売や偽造品といったトラブルがある。メルカリのリスクがお金や時間の無駄になりうるとした場合、ライドシェアは最悪、命を無駄にする。
ライドシェアが無秩序に解禁されれば、土地もお金も信用力もない、無責任なIT企業が参入し、利用の安全を損なってしまう。
「タクシーが足りないときのみ」OKなライドシェアは健全か?
しかし、今回の対策はやりすぎとの見方がある。現在想定されるライドシェアのルールでは、タクシー会社の管理下で実施する必要があり、配車する際もまずタクシーを優先、タクシーに空きがない場合に限り、ライドシェアのクルマを配車するという、かなり歪なものになっている。
とはいえ、「マックデリバリーがフル稼働なときにだけ使えるウーバーイーツ」があったとして、常日頃からウーバーイーツを使い、そしてウーバーイーツで働こうと思うだろうか。
このルールは、タクシーの業界団体が強くライドシェアに反対したがゆえの産物で、ライドシェア普及の足をタクシー業界が最もひっぱっているという批判もある。
安全面のリスクがある限り、ある程度の制約には納得するが、現状のままではタクシーに毛が生えた程度のサービスにとどまってしまう可能性がある。
地方のためにこそ、ライドシェアはあるべき
また、タクシーが足りない、とひとくちに言っても、都市と地方でその事情は異なることも考慮しなければならない。
都市と地方で異なる「タクシー不足」
都市と地方でタクシー不足の本質はまったく別だ。上記の写真は長野県の佐久平駅前。新幹線の止まる駅前ロータリーでも、タクシーはまばらだ。ローカル線の駅前にもなると、ほぼタクシーは止まっていない。いまはタクシーがある地域でも、今後なくなる可能性は高い。
都市はある程度のタクシー供給があり、鉄道やバスも走る一方で、それを上回る、もしくはカバーできない、ビジネスマンやインバウンドの需要があるためにタクシー不足が起こる。
一方で地方は、クルマを運転できず、かといって鉄道もバスも不便だったりなかったりする地域の高齢者が、「タクシーしか移動手段がない」という状況下で、ほとんどタクシー運転手がいないという環境だ。
この2つの社会課題を、1つのルールでなんとかできるものだろうか。おそらく不可能だろう。都市部ならある程度は効果があるだろうが、そもそも「タクシードライバー」自体が限られる地域で、しかも高齢化が進むのに「配車アプリ」で、しかもその数少ない高齢者からの依頼を、タクシーが出払うまで待つ「ドライバー」を用意して、というのは、相当厳しい。
「過疎地ライドシェア」に学べ!
参考になる事例として、PUBLIC Technologiesというベンチャー企業が構想する「過疎地ライドシェア」がある。十分な運転能力はあるものの職業ドライバーになることが難しい学生やサラリーマンなどの「潜在的ドライバー」を活用し、利用者とシステムでマッチングさせるというものだ。
同社は「日本に必要なのは過疎地ライドシェア」と明言する。同社のような思想が認められれば、地方の新聞店や、地銀や保険会社の支店、送迎用のハイエースを持て余す温泉旅館やスーパー銭湯、工務店、通園バスを所有する保育園などに膨大なビジネスチャンスが生まれる。
例えば、その土地の企業、従業員および社用車をライドシェア用に利用でき、タクシー会社は電話予約や配車の管理を担う、という仕組みができれば、「買い物難民」といった社会問題へのカンフル剤になる。
PUBLIC Technologiesはすでにオンデマンド交通「いれトク!AI配車」のシステムを運営するほか、移動の人手不足解決を目指す事業者団体「モビリティプラットフォーム事業者協議会」を1月に設立している。同社のような意見が広がることを期待したい。
まとめ
日本の地方ではクルマの所有を前提とした町が多い。今後は高齢化や貧困、障害などを理由にクルマに乗れず、また身寄りが周りにいないため誰かに頼んで移動することもできない、「移動難民」「買い物難民」の発生が徐々に現実のものとなっている。
賛否がありながらも、徐々に実現の方向へ進みつつあるライドシェア。人々の「移動したい」という想いを乗せることはできるだろうか。4月以降にその結果がわかるだろう。