下妻市は茨城県の南部、つくば市や常総市の近くにある人口4.2万人の街です。。深キョン主演の「下妻物語」が2004年に話題となったため、世代の方々にとっては知名度の高い街かもしれません。
同市は2018年から2020年にかけて、県内唯一の「地方再生コンパクトシティ」として、国交省および内閣府からの支援を受けていました。
そこではスポーツを軸としたまちづくりを実施。消費材やイベントではなく、スポーツという「行動」を成果の軸に定めた点で、従来の「まちづくり」「町おこし」と大きく異なります。
どういった成果があったか、見ていきます。
下妻市の概要
下妻市は、中心部にある下妻城(多賀谷城)を中心に発展してきました。
しもづまじゃなくて、しも「つま」が正しいみたい
城自体は遅くとも室町時代にはあり、江戸時代初期には常陸国(現:茨城県)西部の最大都市だった時期もあります。東に小貝川、西に鬼怒川が流れており、かつてはさぞかし肥沃な土地だったのではないでしょうか。実際、2020年時点でも市内の54.9%は農地です。
その後、江戸幕府の直轄地となります。下妻街道の経由地として、県西側の拠点的なポジションでした。
現在は関東鉄道というローカル線が市を南北に貫いています。1時間に3本程度で、つくばエクスプレスを使えば秋葉原まで1時間半。東京への通勤圏という顔も持っていますが、南の守谷市・常総市に比べるとだいぶローカルな印象が残ります。
住宅地は駅の西側、砂沼沿いに広がります。北部にはリクシルなどの工業地があります。一方で東側には市役所、さらに2kmほど進むと大型のイオンモールがあります。このL字型の連なりが、下妻市をコンパクトシティにする際の軸となると思われます。
下妻市のいいところ
調べていくと、下妻市はただの田舎にとどまらない、いいトコロがいくつかあるようです。
市域はコンパクト
幸い、下妻城を中心とした古い町並みが維持され、大規模なニュータウン等も存在しないことから、居住区域はコンパクトにまとまっています。DID(人口集中地区)もあり、市役所・駅・公園・温泉施設などが徒歩圏内です。
シェアサイクルも整備されており、特定地区の回遊性は高いと言えます。
一方で大規模な集合住宅やタワマン、ニュータウンなどの乱開発はなく、50年後くらいに全国各地で老朽化マンションのスラム化が問題となったとしても、下妻市は持続可能な都市として、変わらぬ賑わいを維持している可能性があります。
つくばエクスプレス効果?下妻駅利用者は増加傾向
鉄道も便利で、2015年から2019年までの5年で、下妻駅の利用客は年間57.4万人から66.7万人へ10万人近く増加、市内の他の駅も概ね乗客数を維持しており、公共交通が生きているという強みがあります。
背景にはつくばエクスプレスの延伸があります。2005年8月に秋葉原とつくばを結ぶつくばエクスプレス(首都圏新都市鉄道)が開業。これにより、下妻駅にほど近い守谷駅から都内に直通できるようになりました。下妻市もベッドタウン的な顔を見せるようになり、鉄道利用が盛んになっています。一方で市内から若年女性を中心とした人口流出も並行して発生。こちらは市の懸案事項になっているようです。
工業団地の造成でさらに発展
さらに、今夏「下妻鯨工業団地」が新たに開業予定で、化粧品のエスティーローダーと、製パン大手のフジパンの工場が完成予定。日経によると2万平米の工場で1日8万斤の「本仕込」を製造できるとか。
ところで「一斤」の定義って何なんでしょうね…?1袋?
エスティーローダーは昨年からすでに工場稼働を始めており、アジアでは初の生産拠点。ふるさと納税返礼品に美容液を用意するなど、地域とのつながりが増しています。
下妻市の悪いところ
そんな下妻にも欠点はあります。
バスを誰も使わない
一方で、バスは壊滅的です。1978年には14路線あった市内バスは、2020年時点でゼロに。東京駅行きの高速バスも2005年に運行開始しましたが、1年経たずに廃止。
現在は土浦およびつくばに向かう「パープルバス」と、1日6本のコミュニティバス「シモンちゃんバス」が地域住民の足であり、車社会であることを感じさせます。
2020年からは新たに「筑西・下妻広域連携バス」が走り始めました。1日6本、下妻駅と、北を走る水戸線の川島駅を結んでいます。
バスがあるに越したことはないのですが、路線バスを除き1日6本(2時間に1本)のダイヤの薄さは気になります。現状のバス網では「車に乗れない交通弱者が仕方なく使うもの」止まりであり、マイカーから乗客をシフトさせるには1時間に3本、4倍程度の本数はほしいところ。
下妻市「第6次下妻市総合計画」でも、市民の不満第一位は「交通が不便である」(82.7%)だったことがわかっています。
工業団地やイオンモールは街の外れにあり、車がない人にとってタクシー利用がほぼ必須という状況がなんとかなればいいのに、とも思います。
市の施策に逆行するプールの廃止
かつては砂沼サンビーチと呼ばれる大規模プールが有りましたが、老朽化にともない、2018年に閉園となってしまった模様。
アウトドア拠点として再生する構想もありますが、事業者として選定されたしもつま・まちづくり公社が2022年6月に協定辞退をしてしまい、続報は出ていません。
たしかにプールの再生が難しかったかもしれませんが、スポーツを打ち出す同市にとって、プールの存在は無視できないはずです。現在暗礁に乗り上げたプールの再開発がどうなるか、注視する必要があります。
下妻市のコンパクトシティ計画
同市の立地適正化計画を見ていくと、市の中心地は下妻駅周辺と、宗道駅のある「千代川地区」に分かれていることがわかります。
この2つの街と、道路を軸としたコンパクト+ネットワーク網を形成できるかが、下妻市のこれから住みよさを左右するといっても過言ではないでしょう。
スポーツを街づくりの軸に
そんな下妻市が、地方再生コンパクトシティモデル事業の目玉施策として掲げたのが「スポーツ環境デザイン」です。
競技空間だけでなく、自然も含めて「体を動かす場所と仕組みを作る」というコンセプトを示しました。スポーツで健康を推進することで、その先の「楽しみ」「社交」といった精神面にも、多くの場合いい効果が見込めます。
とはいえスポーツ施設などのハード面だけがこの施策ではありません。例えば野球選手を招いた野球教室、シェアサイクル、「コンディショニング」と呼ばれるヨガっぽいイベントなど、いろいろ仕込んでいます。
なお同市のスポーツ施設としては、体育館と砂沼広域公園のほか、筑波サーキットがあります。また2017年に開業した全天候型の多目的広場「Waiwaiドームしもつま」では、テニスやフットサル、スケートボードなどが行なえます。
スポーツは、集まるきっかけに。集まるきっかけは、賑わいに。賑わいは経済につながります。ビルやレジャー施設よりもよほど住民向けかつ低コスト。市にも、住民にも良い影響が出ているようです。
プレイスメインキング
下妻市の立地適正化計画(2018年)には、「プレイスメインキング」という言葉がたくさん並んでいます。
「商店街や既存公共施設を活用した街なか型プレイスメイキング」と「既存ストックや空き家等を活用した郊外型プレイスメイキング」がそれです。
同市では、この言葉を「一人ひとりが居心地の良い街の居場所づくり」と定義。目をつけたのが、市の北西部に横たわる砂沼(さぬま)でした。2021年には「砂沼戦略」を策定。公園エリアを教育、健康、農業、食、遊び(スポーツ)、環境の6要素を集約した、快適な生活環境を整備しています。
あまり聞き慣れない言葉ですが、居場所づくりという意味では「サードプレイス」(自宅・職場以外での居場所)という言葉に近いと言えます。
成果
2021年時点で、市が公表している成果としては
・2016年→2019年で下妻駅利用客数を約3%増
・2017年→2018年で公共施設利用者3%増
・「家守」事業者を設置
が挙げられています。
『コンパクトシティ』的提案
ここからは独断で、下妻市にこれくらい思い切った取り組みがあっても良いのでは?というアイデア(妄想?)をご紹介します。
「スポーツ移住」
例えば、新しいスポーツを広めたい人や既存のスポーツを開催したい人、特定のスポーツでプロを目指す人を誘致して特訓できる住み方を提案します。
例えば現段階でも、球場での野球・ソフトボール、砂沼や川を活かした釣りやウォータースポーツ、筑波サーキットを活かしたモータースポーツ、関東平野を活かしたマラソン・サイクリングなど、尖ったスポーツの振興ができる土台があります。
さらに、空き家を活かせばボルダリング等の室内競技、武道・格闘技も広められます。
移住者の生活は市がバックアップします。スポーツ移住希望者は、日中にスポーツに励み、周辺の工場もしくは農地、地元の体育教師・介護・保育・バス等を業務委託、副業的に勤務してもらう体制とすることで、生活に困らない暮らしができるようにします。
住居も、空き家をリノベーションした上で斡旋します。リノベに1部屋600万円、これをどんぶり勘定ですが家賃5万円×約5年かけ回収するイメージです。
移住者がプロとして活躍するようになれば、彼ら・彼女らを見に、市外・県外から人が集まるようになります。またイベントを開き、子ども向けスポーツ教室をたくさん開催することで、子どもをスポーツ選手にしたい子育て世代をまちづくりに組み込める可能性が高まります。
バスの充実
個人的に提案したいのが、下妻駅周辺に高頻度バスを運行するというものです。砂沼周辺を環状運転し、イオンに向かうルート。砂沼周辺は東急バスが実施している「フリー乗降区間」にして、乗りたい人はバスに手を上げて止まってもらい、降りたいタイミングでボタンを押してバスを止めるというものにします。
乗務員は周辺住民やスポーツ移住者から業務委託で採用。時給ありの研修を経て、希望時間に乗務できる副業的な人員体制を整えることで、高頻度運転を可能とします。
下妻はポテンシャル次第で第二の「下妻物語」が始まる
下妻市自体は静かな街ですが、つくばエクスプレスの開業以降、ベッドタウン的な側面を持ち始めました。
さらに工業団地も増え、まだまだ元気な地方の都市という性格を持ち合わせています。
一方で、住宅・商業・工業・観光の全方面にいい顔をしようとしている印象も拭えません。
例えば上越市の記事では市内の雁木を活かしたコンパクトシティづくりを紹介しましたが、こういった街の色や特性というものは、これから「活かす」ために不可欠です。
せっかくスポーツという軸があるのであれば、もっともっとスポーツを推して、都内のスポーツ好きに通わせる、あるいは住ませる施策があってもいいのではないでしょうか。
そのためにもさらなる施設の充実と、移住者を呼ぶために車がなくても暮らせる都市計画が必要です。
ヤンキーとロリータが描いた、平成の下妻物語。今後の打ち手次第では、令和時代はスポーツマンが下妻を支える、第二の下妻物語がはじまる…そんな予感がします。
参考文献
下妻市
https://www.city.shimotsuma.lg.jp/
地方再生コンパクトシティモデル事業
https://www.city.shimotsuma.lg.jp/page/page003047.html
住マイルしもつま
https://www.city.shimotsuma.lg.jp/page/page001831.html
日刊建設新聞
http://www.jcpress.co.jp/wp01/?p=30583