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茨城県境町、小型バスの「レベル4自動運転」開始へ

茨城県境町が自動運転バスに本気です。報道によると、今年度にも、まちなかを自律的に走る自動運転バスが走り始めるとのこと。現在実験段階の「ARMA(アルマ)」と、今後導入を予定する「MiCa」についてお伝えします。

茨城県境町とは

茨城県境町(さかいまち)は人口2万4000人の小さな町です。鉄道はありません。電車の駅までバスで30分かかります。その代わり、高速道路が町を横断しており、車の移動が便利です。そのためか工業団地もあります。

さらに、

町内に セ イ コ ー マ ー ト が2店舗あります。

なんと、町内のローソン(3店舗)に僅差でセイコーマートがあるという、本家の北海道もびっくりの町です。

中の人は、勝手にセイコーマートは北海道にしかないイメージを持っていましたが、実はさいたま・茨城にも出店しているようです。

閑話休題。

境町は1996年に開業した道の駅や、隈研吾が設計に関与した芋のカフェが目玉という慎ましい町だったのですが、ココへ来て自動運転バスの社会実験により、全国から一躍注目を集めることになったというわけです。

境町が自動運転バスを導入したのは2020年秋。自治体が自動運転バスを公道で定常運行するのは国内初でした。現在の自動運転バスは、常時ドライバーの乗務を前提とした「レベル2」です。

本メディアでは、福井県永平寺町における「レベル4」の自動運転開始について記事を過去に公開しました。この永平寺町でのレベル4は「国内初」と言われています。

境町はレベル2ですが、今後「4」への更新を計画しています。より人口が多い場所を走る境町の取り組みは、日本の過疎化に悩む自治体にとって教科書的存在になるポテンシャルがあります。

茨城県境町の自動運転バス概要

まずは現在同町で走っている自動運転バスについて。

■バスのスペック

運営を担うのは、ソフトバンク傘下のBOLDLY。フランス・ナビヤアルマ製の超小型バスを3台導入、主要地域を結んでいます。最高速度は20kmと、原付バイクよりも遅く、定員は11名とハイエースコミューターよりも少ないとのことですが、田舎ではこれで十分ということでしょう。

外装は小さなイモムシのようなデザインで、車内は観覧車のような雰囲気。全体的に可愛らしさで溢れています。

■運賃とルート

運賃は無料で、ふるさと納税などを原資にしています。将来的には有料化の方針です。

本数は1日18便。道の駅など、17の停留所を結びます。ルートはまだ実験段階ということもあり、第一期と第二期で異なります。

第一期は道の駅や役場、郵便局、病院やコミュニティセンターをつなぐ、地元の高齢者向けのルート。二期では高速バスターミナルや公園、居酒屋やカフェなど、若年層や観光客向けのルートになっています。道の駅、バスターミナル及びスーパーは交通結節点の役割を担います。

今後、オンデマンドでの運転も構想中。タッチパネルで行き先を選ぶ方式となる見通しです。

自動運転バスのメリット

自動運転になると、なにが良いかを見ていきます。

1)運転手が不要

まず、運転手の乗務が不要となります。運転手がいらなくなれば、取得の難しい免許を保有した運転上手の人員というのを抱える必要がなくなり、経営的にはかなり楽になる可能性があります。あるいは運賃を安くできるかもしれません。

そして、現在の地方バスは圧倒的なドライバー不足。今後、不足がさらに深刻化する前に、できるところから自動運転化していくのは日本にとって大きな課題解決につながります。

2)エレベーター的にいつでも呼べていつでも降りられる

さらに、乗務員が不要であれば、メンテナンスの時間を除いていつでも走らせる事ができます。予め必要なタイミングでバスを予約することも容易いはずです。

例えば「明日10時に病院に着きたい」と予約を入れておけば、システムが自動運転バスの運行経路を自動で最適化、周辺の乗客を載せて時間前に病院にたどり着くといったことも可能になるでしょう。

これまで「1日3本」「1日1本」といったような、まったく乗客を乗せる気のないバス停のダイヤをいくつも見てきました。これからはこういった「乗りたいバスがない」という課題も解消に向かうかもしれません。

3)外出のきっかけに

運転手が不要になる
→乗車コストが下がる
→運行本数が増える、もしくはオンデマンドで乗れる
→→みんなが外出しやすくなる
という最も楽観的な考えの上でですが、周辺住民が外出の機会を得ることにつながります。

さらに自家用車と違い、何人かが乗り合わせで同じ場所に行くため、会話や交流が生まれます。徒歩圏内でなくとも地域のつながりを維持した形でのコンパクトシティをつくることが可能となるわけです。

とはいえ、まーほとんど妄想に近いと言えば、それまでです。しかし地方の交通は今後、自動運転バスが担っていく可能性が非常に高くなります。特に、境町の橋本正裕町長は「経済効果は少なく見積もっても5億~7億円」と話しており、導入による地域の活性化はある程度見込めます。

自動運転バスのデメリット

縮退が進む日本のスーパーヒーローのような自動運転バスですが問題もありますよ。

1)鉄道の廃止が加速

まず、自動運転バスは過疎地域にめっぽう強い交通手段であるということが前提です。そうなった場合、既存のバス路線は置き換えで済むのですが、鉄道から自動運転バスにシフトが進む可能性もあります。

それは運転手が要らないためにコストがある程度安く済むこと、鉄道よりもルートやダイヤに勝手が聞くことなどがあります。都市間輸送を行っておらず、儲からない10km以下の鉄道路線であれば、自動運転バスにより廃止に追い込まれるという未来がありえます。

2)都市部では路面電車以上に邪魔に

自動運転の課題は遅いことです。おそらく20年後でも、最高速度は40km程度なのではないでしょうか。技術的に可能であっても法律で縛って来る可能性があります。そうなった場合、併用軌道とはいえ車と基本的に分離されている路面電車に対し、車と全く同じ場所を走行する自動運転バスは通行の邪魔になりえます。

特に、自動運転バスには衝突を避ける仕組みがあっても、追突を避ける機能はありません。安全のために停止したバスに、ながらスマホをしていた乗用車が突っ込んでくる事故というのも、向こう10年くらいに1回はあっても不思議ではありません。

3)雇用は大丈夫なのか

公共交通の省力化と聞いて、ある程度の世代の方は国鉄分割民営化を思い出すのではないでしょうか。それまで無駄の多いお役所仕事だった鉄道部門を、利益が出せる民間企業に変えていくなかで大規模な人員整理がありました。

ウィキペディア情報ですが、1986年4月時点で、国鉄職員は約27万7000人で、そのうち9万4000人が「余剰人員」と見られていました。ここらへんの解雇をガンガンに進め、なかには関連会社で全く違う仕事をする人もいれば、第三セクターに飛ばされる人もいたわけです。

ここまで劇的な変化は考えにくいのですが、例えばバス運転手を適切に雇用する仕組みがどれほどあるのかは見えていません。「AIに仕事を奪われる」なんて言い方もありますが、自動運転バスが運転手の仕事を奪った場合、運転手はどうすれば良いのでしょうか。

デメリットを総合して言えば、自動運転でありながら、人が絡む部分で一筋縄ではいかないということになります。早稲田大学大学院の入山章栄氏も、「利害関係の調整が課題になる」とニュース番組で指摘しています。

境町の今後の展開、自動運転「レベル4」へ

茨城県境町では今年度中にも、特定の走行環境条件を満たす限定された領域において、自動運行装置が運転操作の全部を代替する「レベル4」の自動運転を行うバスを導入する予定です。その際は遠隔の監視員が運行のすべてを担います。

5月には、BOLDLYが新たにエストニア製の「MiCa」と呼ばれる自動運転バスの導入を発表。7台のLiDARセンサー、8台のカメラがレベル4の自動運転をサポートします。同社は本年度中に10台の「MiCa」を導入する方針としており、そのうち何台が境町に配備されるかは未定です。

永平寺で実用化されたレベル4の自動運転バスは最高時速12kmで一般車がほとんど通らない山間を電磁誘導線に沿って走る一方、境町では人が多く暮らす街の中心地を、GPSや各種センサーを頼りに完全にスタンドアロンで走行します。

そういった意味で境町は「街なかを自動運転バスが走る未来の姿」だと言えます。どうなるか注目です。

参考文献

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2305/16/news213.html

https://www.town.ibaraki-sakai.lg.jp/page/page002440.html

http://www.zenshin.org/zh/f-kiji/2022/06/f32490203.htm

https://www.sakaimachi.jp/jidou-about.html

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