前回に続き、宇都宮ライトライン開業を見据え、街がどのように変化していくかを検証していきます。
この記事では宇都宮でコンパクトライフを送る際のおすすめのエリアと、コンパクトシティの考えが路面電車に取り入れられたことでどのような生活が可能になるか、見ていきます。
(路面電車の駅は厳密には「電停」と呼びますが、この記事ではわかりやすさを重視して「駅」に一本化します。また宇都宮ライトラインは本記事ではLRTをではなく「路面電車」の表記に統一します。)
宇都宮で「コンパクトライフ」を満喫するならどのエリアがオススメ?

路線図を見ていきましょう。
路面電車は商業~住宅~工業のエリアを串刺しに走る
駅の東口(商業地区)を出てから、宇都宮バイパスを抜けて、峰駅に至るまでは中心街らしい街並みが広がります。
そこからは戸建住宅が多くなりますが、宇都宮大学陽東キャンバス(文京・商業)にはベルモールと呼ばれる大型の商業施設があり、周辺には映画館や温浴施設もあります。
そこから平石地区を抜け、専用軌道となり、鬼怒川を渡ると住宅と田園の混在するエリアへ。清原地区に入るとまた併用軌道になり、文京・工業のエリアから、新興住宅地「ゆいの杜」を経て、芳賀町に入り、芳賀高根沢工業団地まで繋がります。
路線はまさに宇都宮の中心地から、鬼怒川東岸の住宅・工業エリアを抜けていく作りになっています。
路線図から読み取れることは、新路線開通によって最も影響を受けるのは宇都宮市内ではなく、鬼怒川東岸の宇都宮市・芳賀町のエリアであるということです。これまで移動手段が車かバスだった住民にとって路面電車という選択肢ができ、渋滞なしで宇都宮市まで向かえます。
逆に宇都宮から芳賀の人流はほとんど通勤需要になるのではないでしょうか。都市~住宅街を結ぶ路線や、都市~観光地を結ぶ路線は多いのですが、都市から住宅街を経て工業団地を結ぶ路線は結構珍しい存在です。
実際に国交省が示した需要予測の概要では、ベルモール前から清原地区市民センター前までの需要が双方向とも最も高いとしています。乗り通しの通勤需要に加え、鬼怒川東岸から街に買い物しにいく需要があると解釈できます。
開通で最も笑うのは「ゆいの杜」住民
その場合、もっともコンパクトライフの恩恵をあびるのは「ゆいの杜」地区の住民です。ゆいの杜は町の中心部に比べ、交通量は少なく、広々とした土地に、スーパーやスタバが立地し、まったりと暮らせます。さらに、路面電車の開通によって、これまで渋滞する道を行くしかなかったところに、鉄道が開通し、通勤・買い物や遠出に有利となります。駅前まで30分程度、ベルモールまで20分程度で結びそうです。
ただしゆいの杜地区からベルモール周辺まで往復500~600円かかること、車のように買い物を積み込めないことから、どれほど需要がシフトするかは未知数です。いかに住民らに「運転なし」「渋滞なし」「環境汚染なし」といった、コンパクトライフのメリットを訴求できるかが焦点になるでしょう。当面は通勤通学需要によって儲けていく構図になりそうです。
宇都宮ライトラインにみるコンパクトシティの思想

宇都宮ライトレールは整備が21世紀に入ってから本格化したこともあり、昭和型の発展を前提とした整備というよりは、環境問題や高齢化問題に対応するための移動手段として整備が進んで来ました。
そのため、路線のなかにはコンパクトシティの思想が垣間見えます。
トランジットセンター
そのなかでも、路線内の5駅が「トランジットセンター」として想定されていることに注目です。トランジットセンターとは乗り換え拠点であり、路面電車とバス、自転車、自家用車が乗り換えしやすい拠点が設置されます。
これは、コンパクトシティの考え方の1つ「モビリティハブ」に近いものがあります。
トランジットセンターは「宇都宮駅東口」「宇都宮大学陽東キャンバス」「平石」「清原地区市民センター前」「芳賀町工業団地管理センター前」にそれぞれ作られ、開通にあわせてバス路線の見直しも行います。
宇都宮市が示した案のうち芳賀町工業団地のトランジットセンターでは、路面電車の駅の向かいにバスやタクシー乗用車の送迎スペースが確保されています。また100メートル少々離れた場所にはパークアンドライドの駐車場も設置し、沿線から少し離れた住民らの利用がしやすくなりそうです。
また「宇都宮大学陽東キャンバス」は商業施設「ベルモール」が近く、人流の増加が最も期待できる場所です。ここには新規バス路線を4本つくり、うち1本は来たの岡本駅を目指すもの、2本は北東エリアと南西エリアを循環するもの、最後の1本はデマンド型の地域内交通を予定しています。
つまり駅周辺の住民や学生、商業施設の利用客だけではなく、路面電車の行き届かない地域の住民にとっても、「宇都宮大学陽東キャンバス」は重要な駅になります。
さらに平石では、道路を渡ること無く、クルマやタクシー、バスとの乗り継ぎができる用になる予定。コンパクト+ネットワーク型の都市として、路面電車を軸に、バスを補完にという、まさしくコンパクトシティであるべき交通網の整備が進みます。
脱・クルマ社会へ
宇都宮市では過度に車に頼らないまちづくりとして、「生活に必要なまちの機能が充実したコンパクトなまちを便利な公共交通でつなぐ『NCC(ネットワーク型コンパクトシティ)』の形成」を推進しています。
路面電車のトランジットセンターに駐車場が整備されることからもわかるように、クルマに頼らなくても生活が成り立つエリアがこれまでよりもぐっと増えます。
すぐにクルマ不要の生活になるかは怪しいですが、高齢の方は免許返納を検討する良い材料になるでしょう。また高齢でない方でも、少なくとも交通手段が増え、生活の品質が高まるのは自明です。例えば晴れの日は、全駅に設置予定の駐輪場まで自転車を漕ぎ、そこから6分おきにやってくる路面電車で出勤する。雨の日は家のガレージからクルマで濡れずに出勤する。忘年会や出張のときは電車、家族で出る日はクルマなど「使い分け」できます。
この快適さは、自動車の普及率が 97.8%の栃木県だからこその価値であり、マイカーが高嶺の花である東京都民にはできない豊かさを実現しているといえます。(ちなみに東京都民の所有率は60%未満)
宇都宮ライトラインの将来は?

路面電車は2023年に開業しますが、そこからどのような変化を期待できるのでしょうか。
まちなかを走り、東武とも連携
宇都宮ライトラインは2030年代に駅の西側へ延伸する計画があり、早ければ2024年に敷設の申請をする予定です。
延伸は、東武鉄道の宇都宮駅を経て、城山地区を結ぶ構想もあります。東武とつながると、市の東部だけでなく、市内を東西に横断する交通の要となりそうです。
さらに東武と乗り継ぐことで、カンセキスタジアムやとちのきファミリーランド、壬生のコストコに電車で行くという、いまでは考えられないライフスタイルが「アリ」と言われる日がやってくるかもしれません。
駅前・沿線への居住誘導が進む
路線沿線の価値は高まるでしょう。それにあわせて、現在は田園風景の拡がる城山城エリア、平石エリアに住宅地が広がっていく可能性はあります。
宇都宮バイパスの東側にはスプロール的な開発が進んでしまったエリアが見られます。こうしたエリアから路線沿線へ、あるいは町中心部やゆいの杜エリアへ、新たに住もうという動機が生まれることで宇都宮はもっと暮らしやすい、定住しやすい街になるのではないでしょうか。
当初は「ホンダの自動車工場へ路面電車が走る」という構図にちょっと矛盾を覚えたものですが、整備が進むにつれ、路面電車の75年ぶんの進化を感じるとともに、コンパクトシティ宇都宮へ向けた発展がさらに進みそうな気がします。
まずは、開通を楽しみに待ちましょう。
参考
うつのみやの再開発
https://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/res/projects/default_project/_page/001/009/322/utsunomiyasaikaihatsu.pdf宇都宮市
https://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/index.html宇都宮ライトレール
https://www.miyarail.co.jp/宇都宮市のLRT -これまでとこれから
https://www.jstage.jst.go.jp/article/citylife/22/0/22_19/_pdf
[…] 「宇都宮ライトライン」開業でどう変わる?後編:開通後に住むなら「◯◯の◯」がオススメ 前回に続き、宇都宮ライトライン開業を見据え、街がどのように変化していくかを検証して […]