「電気自動車」が脱炭素に向けたキーワードとしてもてはやされています。SDGs、ゼロエミッション、カーボンニュートラルなど、さまざまな文脈で、導入に向けた声が高まっています。
しかしこのEVバスを製造できる国内大手メーカーはまだなく、現状導入されているのはほぼ100%中国製であることが分かりました。
気を吐くベンチャー企業はおりますが、大手企業はほとんど動いていません。トヨタ・ホンダ・日産が元気なはずの日本でなぜ?という視点も交えて見ていきましょう。
そもそもEVバスって?
EVバスは電気で走るバスです。周知のとおり、ディーゼルやガソリンのように物を燃やさないため、エコでクリーンです。エンジンが動かないため振動も騒音も減り、フラットに作りやすい為、従来よりも乗り降りしやすくなります。
さらに維持するための部品が減り、エネルギーコストだけでなくランニングコストも抑えられる可能性があります。
また電気が普段から貯まっている仕様を強みに、災害時の非常用電源として供給する仕組みも整えられています。満充電の場合、1避難所における1週間程度の電気として使えます。
電気バス=中国資本という構図
そんなEVバスですが、現在の日本では中国資本の独壇場です。
日本国内でEVバスを販売している主な企業は下記の3社です。
1)ビーワイディージャパン株式会社
代表取締役社長 劉 学亮
取締役副社長花田 晋作
BYDは米・テスラと肩を並べる電気自動車メーカーで、バッテリー技術を強みとします。今回取り上げる企業のなかでは唯一、日本で乗用車も扱っています。
先日アップしたこちらの記事で、北海道の新球場でEVバスを駅から球場までの足として導入予定であると触れました。
そのなかで、「周辺のモビリティは中国のBYDグループと提携し、EVバスを導入する予定です。」という一文がありました。
BYDのEVバスは、昨年時点で国内電気バスのシェア約7割を占めています。
今後2030年までに電気バス4000台を導入させる目標を掲げており、この目標が達成された場合、日本国内におけるBYDのシェアは30~40%になります。
(参考:従来型のバスシェア率はいすゞ・日野・三菱ふそうの3社で9割を占めます)
【導入】
岐阜県美濃加茂市
福島県大熊町
近鉄バス
京阪バス
阪急バス
関東鉄道
平和交通
東京都建設局
協同バス
ハウステンボス
富士急バス
伊江島観光バス
岩手交通
全日本空輸
会津乗合自動車
沖縄シップスエージェンシー
プリンセスライン
ほか
2)アルファバスジャパン株式会社
代表取締役社長 黄 坤達
取締役副社長 伊東 信輔
アルファバスジャパンは、上場企業の「加賀電子株式会社」が6ヶ月だけ「間接所有子会社」という微妙な関係でおりましたが、現在は同社子会社の「出資先」という扱いになっています。
今回取り上げる3社のなかでは最もパッとしません。しかし徐々に存在感を増しています。
2021年には山梨交通に2台のEVバスを納車。日本経済新聞では「山梨交通が導入したEVバスは中国社が日本仕様で設計し、100ボルトの電源を搭載した。」とあります。
また奈良交通は、官公庁の採択を受けて、同社のEVバスを活用した観光ルートの開発に乗り出しています。
【導入】
山梨交通
【実証実験】
奈良交通
3)株式会社 EV モーターズ・ジャパン
代表取締役社長 佐藤 裕之
取締役副社長 角 英信
取締役 余 達太(北京科技大学)
EVモーターズジャパンは、このなかでは最も国産に近く、社長・副社長は日本の方です。中韓台からの投資も受けていますが、最近国内企業からも出資が相次いでいます。
代表取締役社長の佐藤 裕之氏はソフトエナジーコントロールズというバッテリーの充電設備や充放電検査設備を扱う企業を経て現職に至ります。
とはいえ2022年に中国「瑞昭集団」との連携や、取締役に山東沂星電動汽車の董事長を経験し、現在国家教育部科技委学部委員を務める余達太氏が入っているなど、日本のオリジナルとは言い難い運営体制です。製品を見ていくとバッテリーはCATL(寧徳時代新能源科技)を使用しており、また製造も現在は中国に委託しています。
ただし、今後、北九州に商用EV生産拠点を設置予定で、最大年間1500台の生産能力を持つ工場やテストコースの建設を進めています。一方で受注台数は100台程度です。
【導入】
那覇バス
伊予鉄バス
【実証実験】
熊本県球磨村
その他の国からも導入や技術指導が
このほか、韓国や台湾からの導入事例もあります。
例えば2014年、薩摩川内市と北九州市が韓国@「ファイバーHFG」製の車体に三菱重工業製の電池を搭載したEVバスを導入しました。結局これは故障頻発&コスト高のため、両市ともに早々に引退しました。
また西鉄など一部のバス会社に、既存のディーゼルを電動品に換装する動きがあります。しかしこのプロジェクトには台湾最大手電気バスメーカーRAC Electric Vehiclesからの技術指導が入っています。
日本にEVバスがない理由
ここまで読まれて、業界通の方なら「あれ、日本企業でもEVバスをやっていたはず」と気づかれたと思います。実際、日野は「ポンチョEV」、いすゞは「エルガミオ」でEVバスを出しています。
ではなぜここで取り上げられていないのかというと、ポンチョEVは中国BYDのOEMであり、いすゞは既存の化石燃料バスを他社が改造したものだからです。
ではなぜ、日本では未だにEVバスが出てこないのでしょうか。
1つはEVに対する抵抗感です。2022年に日産「サクラ」が出るまでは、EVにおいて価格と航続距離が大きな課題でした。これはバスも同様です。
「サクラ」が良かったのは、航続距離を必要最小限にして、価格を押さえた点にあります。日本で中国製EVの導入が進むのも、価格のおかげです。日本経済新聞はEVモーターズジャパンが手掛けるバスについて、
「中国メーカーが日本で販売するEVバスよりは少し高い」(佐藤社長)
と社長のコメントで報じています。
また、必要性が低かったことも理由なのではないでしょうか。日本国内にはこれまでもハイブリッドのバスや水素燃料のバスがあり、2000年代から走っています。脱炭素に向けた選択肢の多さから、EV化を焦る必要がなかったのでしょう。
しかし近年になって、「テスラ」を見かける機会が増え、日産やトヨタがEVを発売し、ホンダがエンジン車をやめると言い始めたあたりから風向きが変わりました。
日本企業はやっと腰をあげています。いすゞ自動車は日野自動車とともに2024年からEV路線バスの生産を行う発表しています。合弁会社「ジェイ・バス」を作り、いすゞが生産。バッテリーやモーターなどの調達先はわかっていません。ここにトヨタが入り、3社体制で燃料電池車の開発を検討することも公表しています。
つまるところ、いま日本の大手メーカーがEVバスを製造できないのは「動きが遅すぎる」ことに尽きるのではないでしょうか。
「EVバス」普及の影で中国に流れる日本の税金
こうしているうちにも、勢いのある中国メーカーの日本進出が進み、日本の税金が次々中国へ流出しています。
昨年12月、総務省は、公営バス事業者に向けた電気自動車導入に対し「費用の3割支援」を打ち出しました。地方交付税を財源に、脱炭素化を免罪符に1000億円の予算を盛り込んでいます。
対象となるのは、PHEVバス・FCバスを・EVバスを扱う公営バス事業者、約20団体。
また昨年から、国交省も民間バス会社に対してだいぶ前から似たような補助を行っております。
電動バス1台が2000万~4000万円ですから、1台あたり1000万円前後、中国メーカーと日本のバス会社が得をして、国民が脱炭素の名の下に損している…という構図は非常に気がかりです。
まとめ
SDGsやカーボンニュートラルといった国が推進するキャンペーンは、なぜかどうしても大手企業や外資系のメシのタネになる傾向があります。
肝心なのは、日本が自動車の電動化に補助金を出している以上、なるべく早い段階で電動の乗用車・商用車のラインナップを揃えることにあるでしょう。
日本を中国・欧州のEV攻勢から守る、という観点のみに絞れば、日本独自の電気自動車規格を整備するという手があります。実際、日本独自規格の軽自動車製造に参入する外資系はいません。
ただこの考え方は非常にガラパゴスで後ろ向きです。そしてなにより国の法律をあてにする必要があります。
「国なんかあてにしちゃだめ」という名言のとおり、安易にEVだ脱炭素だと踊らされて海外のEVバスを買ったり、海外資本へ安い土地を売ってメガソーラーを作らせるのではなく、もっと国内産業向けにお金を回してほしいところです。
ビーワイディージャパン
https://byd.co.jp/アルファバスジャパン
https://alfabus-j.com/companyEVモーターズ・ジャパン
https://evm-j.com/電気バス導入などに補助金:国交省
https://j-net21.smrj.go.jp/news/d53v580000003f6v.html公営バス事業者の電気自動車導入 総務省が費用の3割支援へ
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221220/k10013928821000.html「電気バス」日本で広まらないワケ メリットあるも「新しいものに慎重」ゆえ?
https://trafficnews.jp/post/118446「EVモーターズ・ジャパン」の心意気~電動化は脱化石燃料を実現するための日本の生き残り戦略
https://blog.evsmart.net/ev-news/ev-motors-japan-president-mr-sato-interview/BYD日本に今月末参入 EV世界2位、中国メーカー 航続距離・価格、中間市場狙う
https://mainichi.jp/articles/20230112/ddm/008/020/106000c株式会社EVモーターズ・ジャパンが新工場建設について報告に来られました
https://www.pref.fukuoka.lg.jp/site/chiji-top/evmotorsjapanhoukoku.htmlドライバーWeb|クルマ好きの“知りたい”がここに
https://driver-web.jp/articles/detail/39644北九州の新興、EVバス受注 100台超え
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO65650650R01C22A1TB1000/わずか5年で引退! 鹿児島「電気バス」に見る、深刻な車両問題と普及への高いハードル
https://merkmal-biz.jp/post/21902