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東京一極集中、2027年度に是正は本当か? 後編

前回に引き続き、デジタル⽥園都市の構想を見ていきながら、国がどのように東京一極集中を直そうとしているのか、見ていこうと思います。

内閣官房では323ページに渡る「デジタル田園都市国家構想総合戦略」というPDF資料で資料を公開しています。https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_denen/dai11/shiryou2.pdf
このなかで述べられているのは概ねこのような内容です。

1)デジタルのハードウェアと人材を育てますよ
2)地域ごとに目標や方針を決めてもらうよ
3)それによって地域を良くしてくれよ

デジタル田園都市国家構想の実現のためにやろうとしていること

序文では「、地域でのデジタル実装が進み、東京・首都圏と地方との間でウィンウィンとなる関係性が構築されることで、多様な地域、企業、人材等がネットワーク内でつながり、付加価値を生み出す多極型の経済社会が作られていく」としています。

この「多極型」が国の狙いとしてはあります。東京一極集中のデメリットとして、東京になにか起こると途端にすべてが回らなくなる状況があり得ることがあります。たとえば地震、台風、富士山大噴火、インターネットの寸断。中国軍の東京湾侵略、ゴジラの上陸、ウルトラマンとゼットンの戦い…

少なくとも後ろ2つはありえんよ。

そうしたときに、地方が機能していれば今よりもダメージが少なくて済みます。

また、平時においても、地方に活気があれば、地方経済が活性化します。首都圏以外のいわゆる「地方」の人間は7000万人程度いるため、この地域を底上げできれば、国家としてさらにパワーアップできるという考えです。

そこで国は、デジタルの力で都心と地方の格差をなんとか直そうとしています。下記4点の取組によって、地方に活力を取り戻すのが目標です。

・地方に仕事を作る
・人の流れを作る
・結婚出産子育てを支援する
・町の魅力アップ

具体的な目標については、いくつか抜粋すると下記のとおりです。
■デジタル実装に取り組む地方公共団体 1,000 団体(2024 年度まで)、1,500 団体(2027 年度まで)
■地方と東京圏との転入・転出 均衡(2027 年度)
■新たなモビリティサービスに係る取組が行われている地方公共団体 700 団体(2025 年まで)
■持続可能性・利便性・生産性の高い地域交通ネットワークに再構築するため
の地域公共交通特定事業に関する実施計画の認定総数 200 件(2024 年度まで)
■デジタル推進人材の育成 230 万人(2022~2026 年度累計)
■スマートシティの選定数 100 地域(2025 年まで)
■開業率が米国・英国レベル(10%台)になることを目指す
■東京圏から地方への移住者 年間 10,000 人(2027 年度)
■新規学卒者の道府県内就職割合 80%(2027 年度)

デジタル田園都市国家構想総合戦略(案)

とにかく地方に人をとどめ、東京から人が出ていってほしいという国の切実な願いが現れているような気がするのですがいかがでしょうか。

なぜデジタル田園都市構想で、東京一極集中が治ると考えたのか

なぜ東京への転入超過が、デジタル化によって軽減されるのか。

国はこのように考えているようです。「地方がデジタル化すれば、便利な地方に移転する企業ができたり、起業によって雇用が生まれていい感じになるかもしれない」「若者は地方に移住したいと考えているっぽいし、みんなテレワークしている」

たしかに、こうした考え方はある程度正しいと考えます。

しかし上記の目標を見ると、かなりの項目で既視感を覚えるものばかりです。これまでも同様の取り組みはあったけれども、うまくいっていないプロジェクトが少なからずあったのではないでしょうか。

さらに、「デジタル人材」が人口に比例して存在していると考えた場合、東京に人材は多いと考えられます。その場合、結局地方が東京の会社にデジタル化を依頼することになるため、本質的に地方活性化にはならない可能性があります。

じゃあどうしろと…と言われそうなので、個人的な考えを書き留めておきます。

「一律施策」ではデジタルは進みにくい

デジタル田園都市構想には「特区」の考え方が不足しており、各地の魅力を伸ばすのではなく、どうも一律の施策を各地ごとに進めてほしいという思いが透けています。もちろん国という立場ですから仕方ないのですが、それでも、例えば50万人の「地方」と1万人の「地方」を同列に扱っているように見受けられます。

先述のKPIをみても「◯都市以上」「◯%以上」という指標が多く、全自治体に対し要望を出しているものはありません。そうなると結局、デジタル田園都市が進むのはある程度、人口や財力のある町。トカラ列島や小笠原諸島などの島ではなにも変わらない。そんな事例が増えていく可能性があります。

ならばいっそ、各地ごとになんらかの特区を作らせて、そこのノウハウを横展開していくのはどうだろうと考えたくもなります。

デジタル田園健康特区ならある

唯一特区の構想があるのは「デジタル田園健康特区」で、岡山県吉備中央町、長野県茅野市、石川県加賀市をそれぞれ指定しています。ただ、これは単純に「病院」とその周辺をデジタル化するに過ぎず、なにをもって「健康」なのか、なにをもって「田園」なのか、誰がどこまでわかっているのかすらわからないPDF資料があるのみです。「デジタル病院特区」のほうが正しいと感じます。

例えば本当にデジタル健康特区を作るなら、アプリをダウンロードして、立った回数座った回数、歩いた距離と歩数運動時間や睡眠時間を記録し、それにより病気を防ぐ…という仕組みはもう存在するはずです。学校の生徒や地方公務員にiPhoneとアップルウォッチでも買って、ログを取る仕組みを用意してあげれば「デジタル田園健康特区」アピールができるでしょう。

ここに、マイナンバーカードと紐づけた決済サービスから購買データを取ってきて、家族が食べたもの飲んだもの、タバコの本数と酒の本数、お菓子の量を記録して、都度アドバイスする仕組みを用意しておけば、食生活改善にもつながるはずです。

さらに、ここに地域の事業者を募って、定期的にオンライン相談をする仕組みを整えてみるのはどうでしょうか。町医者だけでなく、整体や鍼灸院などの東洋医学従事者、スポーツインストラクター、管理栄養士、学校の体育の先生と保険の先生を交えてみる。またあるいは、90歳超えのおじいちゃんおばあちゃんを「スーパーシニア」かなんかと呼んであげて、長寿の秘訣や病気にかからない健康法をセミナーしてもらう、という取組もできます。

地方に人が戻る(=東京一極集中が緩和される)という考え方には大きな可能性があります。ただ、前回の明石市は「子育て」に特化して人口が回復、一方でデジタル田園都市は「すべての自治体ができる範囲でデジタルに取り組もうよ」というものなので、デジタル田園都市を推進したから地方が活性化した…という理論は有りえません。

デジタル田園都市構想に共感した自治体や企業、あるいは個人起業家が、なにか尖ったアイデアを街に展開して、結果として雇用と活力を生んだ…というなら、有りえます。

各地ごとの個性に集中投資し、街を尖らせる取組が出て来れば、デジタル田園都市国家構想も進むのではないかという意見を添えて、この記事はおしまいです。

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