コンパクトシティ事例

埼玉県蕨市のコンパクトシティ計画とは?日本一狭い市は2024年にどう変わる?後編

ここからは、蕨市のコンパクトシティ形成に向けた取り組みの1つである「中心市街地活性化基本計画」の結果を振り返っていきます。

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参考資料として、「令和元年度 蕨市中心市街地活性化基本計画の最終フォローアップに関する報告」に基づき、記事を作成しています。

蕨市の中心市街地活性化基本計画は、「日本一小さな市域における日本一の人口密度を有するコンパクトシティとしての都市活力の持続性確保を目指した中心市街地活性化」をキャッチコピーに、狭い地域に住民がまとまっている蕨市の強みを活かし、空洞化が進行する商店街を、なんとかして街を盛り上げようという取り組みでした。

そこで、蕨市は、コンパクトシティ形成のために2つの指針と、3つの目標を掲げていました。

2つの指針とは、
1 コンパクトな都市規模ならではの都市活力を創出するまちづくり
2 愛着をもって誇れる個性と利便性を備えたまちづくり

の2点。

そして大目標として掲げていたのは、
①空間ストックの有効活用による新陳代謝の誘発
②来街目的の多様化による賑わい創出
③中心市街地への市民の支持向上

この3点でした。

2020年にこれらの取り組みについて、最終のフォローアップ(追跡調査)が行われています。
それではさっそく、見ていきましょう。

①空間ストックの有効活用による新陳代謝の誘発

蕨市を通る京浜東北線

まず、1つめの取り組み、商店街の新陳代謝です。

同市の商店街は埼京線の開通や、イオンなどの大型商業施設の開業により、他のエリアに買い物客が流出する状態が長く続いていました。自然と空き店舗も増え、「低未利用地」と呼ばれる空き地や駐車場も増えました。

2017年には、この空き店舗と低未利用地の数が153ヵ所に及んでいたといいます。

この状況を改善すべく、29店舗の空き店舗を新たに活用する目的を掲げていました。施策として、空き店舗利用を希望する事業者への補助金や、創業セミナーを実施するなど、商店街活性化の取り組みが数年にわたり続けられました。

結論から言うと、153の空き店舗や低未利用地が、124ヵ所まで減少。2020年時点で、12件の活用があり、空き店舗を改装したアンテナショップなどこれまでにない商業施設の開店につながっています。取り組みは一定の成果があったといって良いでしょう。

さらいに創業事業についても、6件の新規創業に繋がりました。現在も座学と店舗運営を学べる研修プロジェクトが進められており、今後の取り組みにも注目です。

一方で廃業する店舗も一定数あり、空き店舗を118ヵ所に減らすという目標には、あと6ヵ所達しませんでした。

②来街目的の多様化による賑わい創出

これは①とも関連しますが、まちづくりを通じて来街する人を増やし、より賑わいのある蕨の中心街を形成しようというものでした。

そのために①の商店街、そして市立の民族博物館、さらに蕨の名産を生かした「食」の交流拠点の整備、イベントの実施などを掲げています。

結果は悪く有りませんでしたが、一部のプロジェクトが大幅に遅れるなど課題も見えています。1つずつ見ていきましょう。

まず、四季を味わう“日曜日の夕べ”交流会事業。

毎週、市内に8つある商店街の持ち回りで、「四季を味わう」をテーマとしたイベント実施、通行人を400人増やすのを目指しました。

これは結果的に、継続的に実施できる経済的余裕のある商店街が1つのみだったため。最終フォローアップでは、人的支援や他のイベントとの掛け合わせなどを行う必要性を指摘しています。

次に、西口地区の再開発。これは図書館や行政センターの設置こそ決まりましたが、具体的な実行はこれからです。

計画によると駅前広場から、2010年に竣工したタワマン「シティタワー蕨」までの間に遊歩道を設置。住宅、商業、公共施設を設置しつつ、道路も整備していきます。

そして今回のプロジェクトで最も課題となったのは「食の交流拠点整備」です。この取組においては中山道沿いの宿場町である同市において、歴史民俗資料館を活用する形で「食」を軸とした拠点づくりをしようという取り組みです。

約2000人の来館者を増やすことを目標としたこの取り組みですが、基礎調査を行った結果、なんらかの「事業内容を見直す必要があり」計画は動いていません。

そして、上記プロジェクトとある程度の連動性を期待されていた、蕨市にある「歴史民俗資料館」の活用も、成果ほぼなしという結果になっています。

食の交流拠点については、JR山手線の新大久保駅において2021年3月に「KDC」という食の交流拠点を開業しており、蕨版の交流拠点も新大久保に似た取り組み、かつ地域性を生かしたものになると予測できます。

なんにせよ「食」を求めて周辺住民を集客し、そのまま歴史民俗資料館に誘導するという企みは崩壊。その一方で歴史民俗資料館を活用した3月の「ひな祭り」8月の「機祭り」など季節のイベントを実施することで、商店街の歩行者や通行人が5年でほぼ2倍になるなど、成果をあげています。

③中心市街地への市民の支持向上

最後の要素については、あまり情報がないためコンパクトにまとめます。

「中心市街地への支持向上」とは、これまでよりも駅前や商店街など、蕨の中心街を市民がどれほど好きになっているかを満足度によって数値化しようというものです。

これには、市民意識調査における「商店街の満足率」をKPIに、満足度19%を目指したものでした。世の中のコマーシャルなどを見ていると満足率99%とか結構見かけるので、難しいようには感じませんが、実は全くの未達におわりました。

満足度は2020年8月の段階で、4.7%にとどまります。先述の商店街持ち回りで実施する企画や交流施設の整備が追いつかなかったことがひとつの要因ですが、それ以上にあまり関心を持たれなかったことが要因であると個人的に考えます。

現在、一般社団法人から不動産大手まで、さまざまな団体がさまざまな尺度で街の満足度を測り発表していますが、基本的にそれらは土地に紐づくブランド力であったり、観光や商業施設の多寡、行政サービスなどで左右されます。蕨市に関しては著名なブランドがなく、来街目的の薄いエリアであるという認識があったからこそ、今回のコンパクトシティ計画が発動しているため、これは鶏と卵の議論になってしまいますが、現状は「蕨に魅力をさほど感じない」というのが住民のおおまかな意見なのではないでしょうか。

県外のみならず国外からも転入が多いエリアだからこその課題と言えそうです。対策としては抜本的な再開発もありますが資金的に現実性はなく、いかに泥臭くいまの取り組みを継続していくかによるのではないでしょうか。

埼玉県蕨市のコンパクトシティプロジェクトまとめ

今回の活動から結論付けられることは、もともとコンパクトな土壌が整っており、東京経済圏に位置する蕨市という優れた立地をもってしても、行政の働きかけだけでは限界があり、商店街の中の人や地元有志による団体的な活動が行われない限り、大きな成果に結びつけるのは困難であるということです。

例えば商店街を復活させるプロジェクトにおいては、セミナーの断続的な開催や、「蕨市まち連」による情報発信などの活動があってこそ結実した部分が少なくありません。

一方「食の交流拠点」がほとんど進展しなかったのは大きな反省点といえますが、一方で有意義なデータにもつながりました。それは新しく大規模な投資活動を行わずとも、既存の施設などを利活用した催事の実施を行うことで、歩行者や自転車の通行量が増加したということです。

従来の日本の行政によく見られた「箱物行政」というワードがあります。街の活性化という議論の中で、まず新たな施設ありきという議論から数億、あるいは数兆円の税金が無駄遣いされてきた過去があります。しかし、やはり日本国の強みは伝統や文化と、それに紐づく体験というコト消費であり、ソフト面を活用することが重要だという事実をひとつの街が示してくれた貴重な取り組みであると言えそうです。

蕨市はもともとコンパクトな街の1つですが、コンパクトな街が実現すればほかの自治体も蕨市のように、密度の濃い取り組みが可能になります。全国的にさらなるコンパクトシティの進展を期待したいところです。

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